【2022年2月】令和4年度税制改正大綱②
税理士法人あおば
三瀬 義男
ここに掲載した記事は、それぞれ掲載時点の情報です。税制の改定や行政当局の新たな通知等によって、取扱いが変更されている事項が含まれている可能性があります。ご高覧にあたって、予めご了承ください。
どうなる事業承継税制
皆さんは、令和4年度税制改正大綱から何を感じますか? 毎年発表される税制改正大綱は、毎年100ページにものぼり、我々専門家でもすべてを読み込むには大変な労力を要します。
皆さんには、税制改正大綱の「第1章 税制改正の基本的な考え方」と「第3章 検討事項」だけでも十分に読む価値はあります。なぜなら、ここに書かれていることは、税制だけでなく、日本の今後の方針を示しているからです。
政府の理念、見えない改正案
では、今回の税制改正は、何を意図して国民にメッセージを送っているのか。
一つは、法人税の減税を軸に、企業の成長と雇用の安定を図ることです。岸田首相の方針は「新しい資本主義」実現に向けた税制を目指しています。ただ、肝心の中身は、住宅ローン減税や固定資産税の見直しといった目先の対応であり、抜本的な内容は見受けられません。もっといえば、政府の理念がまったく見えない改正案といえます。
その中で、大綱発表前から、私が注目していた税制項目があります。それが、事業承継に関する税制の動向です。「新しい資本主義」実現に向けて、中小企業の存続及び事業承継の議論なしに、日本の成長戦略は描けません。
さらに、このコロナ禍においては、地域医療の存在は、重要性を増しています。医業のスムーズな承継なしに、個人クリニック及び医療法人の存続はありえません。その意味では、「医療継続に係る相続税・贈与税の納税猶予・免除制度」の動向に注視しました。
注目される医業の承継にかかわる税制
平成18年度医療法改正により、平成19年度以降の「持分あり医療法人」は設立できなくなりました。さらに、厚生労働省としては、既存の「持分あり医療法人」を「持分なし医療法人」へ移行することを推奨するために、税制面の特例を創設しました。それが、平成26年度税制改正大綱の中に盛り込まれました。
税務上の優遇措置とは、「持分あり」から「持分なし」に移行した医療法人の出資金について、相続税・贈与税を猶予・免除するという規定です。内部留保の高い医療法人ほど、出資金の財産価値は高くなります。
例えば、1千万円で出資した出資金が、相続時に10倍の1億円、100倍の10億円になることは、珍しくありません。さらに、この高額になった出資金に対して相続税が課税された場合、納税資金の確保に窮します。最悪の場合、医業継続に支障きたすかもしれません。この特例を適用すれば、自ら出資金という財産(価値)を放棄することで、出資金に対する相続税の負担をゼロにすることができます。
迫る「持分なし」法人への移行特例の期限
ただ、その期限がいよいよ迫っています。タイムリミットは、令和5年9月末です。手続き準備を考慮すれば、おおよそ1年です。
私は、密かに上記の特例規定は、さらに延長し、個人クリニック版の事業承継税制が創設されるものと期待していました。しかし、本年度税制改正大綱及び厚生労働省税制改正要望書において、一切、医療の事業承継に関する提案はありませんでした。
ということは、期限内にこの特例制度は終了すると判断して間違いありません。政府の理念はともかく、実務的には、今一度、医療法人の「持分あり・なし」について検討する必要があるかもしれません。
ぜひとも、令和4年は、個人・法人を問わず、事業承継を考えるきっかけの年にしてください。
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