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税理士の相続事件簿3 ~本当は怖い暦年贈与~

経営に役立てる医院の会計と税務税理士法人あおば
三瀬 義男

 ここに掲載した記事は、それぞれ掲載時点の情報です。税制の改定や行政当局の新たな通知等によって、取扱いが変更されている事項が含まれている可能性があります。ご高覧にあたって、予めご了承ください。

【2021年3月】税理士の相続事件簿 3 ~本当は怖い暦年贈与~

 現金贈与。最も手軽で効果的な相続税対策の一つです。しかし、簡単であるからこそ、対応にスキが生まれ、法的要件を見落としてしまいます。今回の事件簿は、そんな対応の不備を指摘された事件です。

 大西五郎(仮名)は、相続税対策の一環として3人の子、5人の孫へ毎年、110万円の現金贈与を実行する。贈与に関するすべての通帳は自ら管理し、毎月一定期日に引き落とされる口座振替により贈与をしていた。数年経過後、大西五郎は死亡。贈与した総額は、4400万円にも達していた。後日、税務調査において次のように指摘される。

 「この4400万円は、名義に関係なくすべて相続税として課税させて頂きます。」

 大西五郎の死亡後、一連の贈与について、相続税の追徴課税が発生することになったのです。本来、贈与した4400万円は無税にて子や孫に財産を移転することができたはず。しかし、一つの不備により多額の課税問題に発展してしまいました。一体、その不備とは何のことだったのでしょうか?

 まず、4400万円が相続税として課税される根拠です。それは、“通帳を自ら管理していた”ということです。贈与の条件は「あげる」「もらう」という意思の確認が必要です。そして、もらった側は、その現金を自由に使うことが許されます。大西五郎の場合、通帳はすべて自ら管理していたということなので、もらった側での自由な使用が制限されている可能性があります。その場合は、単なる通帳の名義が変わっただけの名義預金として大西五郎の相続財産となります。

 安易な現金贈与は、相続日後に予期せぬ課税負担を引き起こし、多大なトラブルの元になります。簡単であるからこそ、しっかりと贈与した根拠を残すことを心がけましょう。大切な事は、贈与契約書を残す、現金手渡しは避ける、贈与の日にちを変える、贈与した現金は、“もらった側”で管理することです。

 最後に、今後の暦年贈与の対応について注意喚起をしておきます。令和3年度税制改正大綱を読み解くと、暦年贈与に対して課税強化のメスが入る模様です。上記の事例からもわかるように、計画的な暦年贈与は、相続税対策として非常に節税効果が高くなります。そこで、政府は相続税と贈与税の在り方全般を見直すことをわざわざ、税制大綱に予告しています。

 現時点において予想される改正は、暦年贈与の基礎控除(110万円)の廃止。そして、相続開始前3年以内の贈与加算の規定をさらに延長する。これにより、生前に贈与しても相続税で課税されることになります。現時点において、あくまでも予想の範囲ですが、確実に言えることは、間違いなく相続税・贈与税の課税が強化されます。具体的な議論はこれからになると思われますが、今後の動向に是非とも注意を向けながら、暦年贈与の計画をお願いします。

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