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家族の・家族による・家族のための民事信託3

経営に役立てる医院の会計と税務 税理士 三瀬 義男

 ここに掲載した記事は、それぞれ掲載時点の情報です。税制の改定や行政当局の新たな通知等によって、取扱いが変更されている事項が含まれている可能性があります。ご高覧にあたって、予めご了承ください。

【2017年3月】家族の・家族による・家族のための民事信託3

~信託の流儀~

 いよいよラストメッセージ。最終回は“信託”を相続税対策としてどのように活用していくのかについてお話します。信託はもとももと節税を図るために活用するものではありません。しかし、信託を応用することで、結果的に相続税の節税を図ることができます。

 ある相続税調査の現場で起きた事例です。亡くなったおじいちゃんは生前、子や孫に毎年110万円の現金贈与をしたつもりで、子孫名義の預金口座に預けていた。税務調査の際、この通帳はおじいちゃんが管理・運用をしていた事実が判明。

 この子孫名義の預金は誰の財産か? 仮に贈与が成立していれば、亡くなったおじいちゃんの相続財産ではありません。では、贈与が成立するためにはどのような条件が必要か。法的に贈与が成立するためには「あげます」「もらいます」というお互いの意思表示が必要であり、かつ、もらった側(子・孫)は預金を自由に使える状態にしておく必要があります。

 事例では、もらった側(子・孫)はもらったという事実を知らず、当然、もらったお金を自由に使える状態にないということです。ということは、仮に10年間、せっせと相続税対策として贈与した財産は、税務調査で否認され、亡くなったおじいちゃんの相続財産に加算されることになるわけです。

 この時、両親の想いとしては、相続税対策として子や孫に贈与したい…。だけど、子供の教育上少なからず影響があるため、一定の年齢になるまでは自由に使うことを制限したいということです。両親の想いを優先させれば、相続税対策として効果はなく、相続税対策を優先させれば、子供の教育上、心配である。

 このジレンマを解決するために信託を活用します。信託は子供に知らせずに財産の承継をすることが可能です。信託行為の中で、委託者(祖父)は受益者(孫)に現金(受益権)を贈与し、受託者(両親)が現金(受益権)を管理する信託契約を締結する。さらに、ここがポイントです。「受益者に定められた孫に対して、受益者になった旨を通知しない」と定めておきます。そうすることで、受益者となった孫に「現金を渡した」と通知しなくても、親が現金を管理することで、相続税対策における贈与が完結し、子供の教育上の問題を軽減することができます。

 このように信託は各相続財産の種類を受益権に変えることで、柔軟な相続税対策を実行することができます。信託は水が固体・液体・気体と変化するように、委託者・受託者・受益者を応用することで、無限の相続対策が可能になります。

 相続対策は、財産や事業を次世代に残したい親の気持ちと、それを承継する子供の気持ちを紡ぐことだと、信託実務の中で教わりました。信託を通して、ご親族がもめることを避け、気持ちをつむぐ事業承継に役立つと願っています。

経営に役立てる医院の会計と税務

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