奈良県保険医協会

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医業税制の焦点と課題〈その2〉消費税(後編)

経営に役立てる医院の会計と税務 税理士 西村 博史

 ここに掲載した記事は、それぞれ掲載時点の情報です。税制の改定や行政当局の新たな通知等によって、取扱いが変更されている事項が含まれている可能性があります。ご高覧にあたって、予めご了承ください。

【2005年8月】医業税制の焦点と課題〈その2〉
消費税(後編)

 消費税増税で福祉・医療は前進するのか、軽減税率の問題点は何か、更に事業税や措置法26条の問題点について、3回に分けて検討しています。今回は2回めです。

仕入税額控除が否認され「売上税」となる消費税

 事業者は、売上に係る消費税から仕入に係る消費税を差引いてその差額を納付するというのが消費税の仕組です。しかし、現在の日本の消費税法では、事業者に「帳簿及び請求書等」の両方の保存を義務付け、その保存がなければ、当然認められるべき仕入に係る消費税の控除を否認することになっています。実際の調査事例でも、この仕入税額控除が否認され、売上に係る消費税の全額を納付しなければならなくなった実例が後を絶ちません。

 今後医業において軽減税率やゼロ税率を採用するとしても、こうした日本の消費税法の欠陥を是正しなければ、診療所などでも仕入税額を否認される事例が生じる可能性があるのです。

消費税は福祉に使われたか

 消費税の15年間の税収合計は、累計で約138兆円となっています。他方社会保障関係費は導入当初に比較すると55兆円の増加に止まります。また、この間の法人税、法人住民税、法人事業税の税収減は約131兆円となっています。この数値からは、消費税は必ずしも社会保障や福祉財源使途に使用されたとは言えず、法人税等の減税、減収の補完として費消されてきたとも言えます。そして、より本質的な事は、国民が税負担の見合としてどれだけの受益を受けているかという問題です。高齢化社会論では、負担の増大という財政側からの議論ばかりが横行しています。しかし、家計や国民経済から見て果たして租税と社会保障の負担率から社会保障給付(受給)率を控除した純負担率がどのようになるかが実は大きな問題であると考えます。日本は国際的にみて給付率が低いため純負担率がアメリカや欧米諸国に比べて高いとの試算例があります。介護保険の改悪を筆頭に、ますます増加する負担と削減される年金や医療保障で今後純負担率が更に低下する事が懸念されます。

少子高齢化社会論と消費税

 少子高齢化社会に対応するための財源として消費税が必要であるというのが政府の主張です。しかし、総務省データを検討すると、

  • 非労働力人口は増加の一途をたどり15歳以上の人口の39%、4285万人に達していること。昭和28年当時はその割合は、約30%であったこと。現在約10人に4人が非労働力人口となっていること。
  • とりわけ、女性の非労働力人口は、女性の労働力人口2732万人を上回る2916万人となっていること。

が判ります。

 少子高齢化と同時に進行しているのは、非労働力人口増加、特に国際的にも低い女性の有業率の実態です。また意外にも女性の有業率が高い国では、出生率が高いという統計が試算されています。ドイツ、イタリア、日本の出生率の低下が国際的にも際だっています。社会保障の進んだ国では女性の有業率が高く同時に出生率が高いという事実は、少子高齢化の本質的解決のために、ゆがんだ財政を根本から転換し、社会保障を国の政策の中心に据える事こそがまず重要である事を物語っているのではないでしょうか。

消費税のゼロ税率化を考える

 現在保険診療報酬は消費税法では「非課税」となっています。しかし、仕入に係る消費税は医療機関の負担となっています。現在の消費税上「非課税」収入に対応する仕入についてはその消費税の還付を受ける事ができないからです。診療報酬改定時にこの「損税」相当は手当てされ診療報酬に織り込み済みであるというのが当局の見解ですが、結果的に国民に「損税」部分を負担させた事になります。国際的には、イギリスなどいくつかの国が食料品など生活必須の消費に対してゼロ税率を採用しています。この制度を採用することにより医療機関は仕入に係る消費税の還付を受ける事が可能となり、本当の「非課税」が実現します。

 本質的に弱者いじめの消費税は廃止されるべきであるというのが筆者の意見です。しかし医療、食料品など生活に直結する消費にゼロ税率適用を求めることは、消費税が廃止されない現状で、最も国民の立場に立った正当な主張であると考えています。(つづく)

経営に役立てる医院の会計と税務

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