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法人成りの税務会計

経営に役立てる医院の会計と税務 税理士 西村 博史

 ここに掲載した記事は、それぞれ掲載時点の情報です。税制の改定や行政当局の新たな通知等によって、取扱いが変更されている事項が含まれている可能性があります。ご高覧にあたって、予めご了承ください。

【2009年10月】法人成りの税務会計

 一人医師医療法人制度が改定され、現在は基金拠出型法人以外の法人の設立が事実上認められなくなりました。この制度改定により、医療法人の税務会計はどのようになるのか、個人診療所との違いを解説します。巷間、医療法人成りを盲目的に勧める勧誘が目立ちますが、目的を明確にし、長所短所を見極めた判断が必要です。

大きな社会保険負担増

 個人診療所の場合については、常時5人未満の従業員を使用する事業所であれば社会保険加入が任意とされます。しかし、法人の場合には、従業員が1人であっても社会保険加入が強制となりますので、社会保険未加入の個人診療所にとっては法人成りにより大きな負担が生じます。また法人化で、院長は法人から給与を受取ることになりますが、院長給与も当然社会保険の対象となります。

表1
個人診療所法人成り後
税金負担 10,821,040 税金負担 7,682,926
健康保険、年金負担 925,920 社会保険負担(従業員分含む) 4,851,744
院長手取 18,253,040 院長手取り 17,350,814
法人留保 114,516
30,000,000 30,000,000

 表1は、個人診療所の院長所得が3000万円の場合と、所得は3000万で変えずに院長給与を所得の範囲で最大にした法人の場合を比較したものです。この例では、確かに税金総額は大幅に減税となっていますが、社会保険(従業員の負担増分を含む)は逆に大幅に増加し、結果的に院長の手取額は減少しています。無論厚生年金の掛金は将来の年金給付に反映されますので、一概に不利とは断言できません。しかしこの社会保険の負担増を吸収できるほどの法人化へ積極的な動機が必要です。

法人成りで退職金支給が可能に

 社会保険負担は大幅に増加しますが、既に5人以上の従業員があり社会保険に加入している診療所にとっては、院長の給与分の増加のみとなります。それでも、法人化により院長の税と社保控除後の手取りは減少します。

 逆に院長給与を比較的少額に抑え、税と社会保険を個人診療所並みにすると、医療法人には院長給与を引下げた分の税引後の利益が蓄積します。

表2
個人診療所法人成り後
税金負担 10,821,040 税金負担 5,922,172
国保・国年負担 925,920 社会保険負担(従業員分含む) 4,851,744
院長手取 18,253,040 院長手取り 12,714,128
法人留保 6,511,956
30,000,000 30,000,000

 表2は、この場合の院長手取の比較です。法人には、毎年利益が蓄積していきますから、その金額は年が経つごとに相当大きなものとなります。これは、将来院長が退職する場合の退職金の原資とするのが通常です。ちなみに退職金に対する税額は、現在の税法では大幅に優遇されており、勤務年数に応じ退職控除がある上に退職金の1/2のみが税金の対象となります。こうして退職金支給を予定して初めて院長手取りが個人診療所の手取額とほぼ均衡するようになります。

法人成りの長所とは

 このように個人診療所に比較し、税と社会保険料に大きなメリットが存在しない法人診療所ですが、人的資源と物的資源の集中により組織的系統的な診療体制が可能になるなど、社会的信用の増加、地域医療の推進にとっては十分に役立つ制度であると言えます。むしろ、こうした診療体制の整備などにより結果的に院長の所得も増加するといいうのが法人成りの本来の目的ではないでしょうか。

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