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2019年税制改正大綱を読み解く(3) 

経営に役立てる医院の会計と税務 税理士 三瀬 義男

 ここに掲載した記事は、それぞれ掲載時点の情報です。税制の改定や行政当局の新たな通知等によって、取扱いが変更されている事項が含まれている可能性があります。ご高覧にあたって、予めご了承ください。

【2019年3月】2019年税制改正大綱を読み解く(3) 

税制改正から考える医業の事業承継

 シリーズ3回目は、医業に対する事業承継税制について検討します。まず、法人化をしていない個人診療所・病院で、既に後継者が決まっている方は、平成31年度に新たに創設された個人版事業承継税制の活用をお勧めします。平成30年の税制改正では、法人が対象の事業承継税制に「特例」がもうけられ、非常に使いやすく整備されました。本年は「個人事業者にも」と、中小企業支援団体の要望により改正に加えられました。

 個人版事業承継税制の特徴は、事業にかかる不動産、機械装置、診療機器等に対する財産について、贈与税・相続税の負担を猶予する制度です。19年4月1日から5年以内に「承継計画」を都道府県に提出し、一定の要件を満たせば、贈与・相続税の納税が猶予され、さらに、後継者死亡するまで事業を継続し、資産を保有すれば、納税は免除されます。

 次に医療法人にかかる事業承継税制について検討します。平成30年に改正された法人株式の納税猶予制度は医療法人について適用することはできません。代わりに、認定医療法人に対する相続税・贈与税の税制支援措置が設けられています。この制度趣旨は、後継者への事業承継を促進する観点ではなく、地域住民への安定的な医療提供を目的としています。そのため、行政機関は医療法人に出資している社員に「持分」の放棄を求めます。通常、出資社員は死亡により出資持分に対する相続税負担が生じます。また、出資社員の退社の場合は「時価」により払戻しを迫られる可能性があります。

 出資持分を放棄することで、「持分なし医療法人」へ移行した法人の出資金は、相続税・贈与税の納税が免除されることになります。つまり、本来課税される出資持分は、個人の財産性を有しないため、相続税・贈与税の負担が将来にわたって発生しないということです。この税制措置は医療法人の認定制度と同様に平成29年9月30日までの期限措置でしたが、税制改正により、平成32年9月30日までに延長されました。延長されていますが、もう残り1年少々です。業績が良く、内部留保の高い医療法人については、ぜひとも、検討に値する制度だと思います。

 今回のシリーズは「改正」をテーマに相続・事業承継についてお話しました。相続税は、民法や医療法の改正により大きく影響します。よって、定期的な法改正を視野に相続・事業承継の準備を進める必要があります。

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