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消費税改定と医業経営

経営に役立てる医院の会計と税務 税理士 西村 博史

 ここに掲載した記事は、それぞれ掲載時点の情報です。税制の改定や行政当局の新たな通知等によって、取扱いが変更されている事項が含まれている可能性があります。ご高覧にあたって、予めご了承ください。

【2019年10月】消費税改定と医業経営

 令和1年10月からいよいよ消費税が改定されることになります。付加価値税としての消費税の持つ意味を再確認しながら、医業経営に及ぼす影響を検討することが重要です。あわせて、実務に影響する経過措置や自費請求のポイントについても説明します。

1 消費税は付加価値税、ゼロ税率の必要性

 保険診療報酬は消費税非課税であり、よって仕入れや経費、建物、備品にかかる消費税を控除することができません。
 「消費税は事業者の負担を求めるものでなく、消費者が負担するものです。」「本来的に事業者にとって実質的な負担となるものではありません。」(「消費税と診療報酬について」厚生労働省HP)という建前に反し、平成28年厚生労働省が実施した「控除対象外消費税の診療報酬による補填状況把握」では、補填率は病院で85%、歯科診療所92・3%と診療報酬改定により消費税の損税が「補填」されてない実態が明らかになりました。
 そもそも消費税は、財務省も認めるとおり「付加価値税」です。事業者の「給与と利益等」すなわち「付加価値」に課税するのが消費税の本質です。一律に報酬改定したとしても、医療機関の規模の大小、報酬の増減、経費の増減により異なる「付加価値」に課税される消費税を正確に「補填」することは不可能です。
 1989年の消費税導入から、医療機関に対して「ゼロ税率」税制が導入されていたら、このような無益な改定や擬制的な「補填」制度を導入する必要もありません。今回の報酬改定も前回同様一律の報酬改定に終始しました。今一度ゼロ税率による本来の「補填」が必要であることを確認することが大切です。

2 自費にかかる消費税改定

 保険診療報酬以外の自費報酬については10月1日から10%の消費税の対象となります。9月に前受金等を受領していても、「治療終了時」が10月なら前受金等を含め治療全体が10%の対象です。建築請負契約や一定のサービスについて2019年3月までに契約を締結した場合には10月以降も8%のままの税率とする経過措置が設けられていますが、医療にはその経過措置の適用はありません。
 もし、10月以降も8%のままの消費税とすれば、差し引き2%の消費税は医療機関の負担となります。税込みで表示している場合、2%部分を値上げするかどうかの判断が必要です。値上げするものとしないものに区分するなども可能ですが、院長の判断が問われます。

3 2023年にインボイス制度導入予定

 消費税は、売り手が受領し、買い手が支払います。売り手の消費税は必ず買い手の「経費」となるのが消費税の原則です。
 2023年インボイス制度導入が予定されています。インボイスは、税務署に届出し消費税を納税する事業者でないと発行できません。インボイスの発行できない事業者は消費税を価格に上乗せすることができなくなります。
 現在は、免税事業者など消費税を納税していない事業者も消費税を価格に上乗せできますが、2023年からは上乗せできなくなります。年間の自費収入が1千万円未満の事業者は、課税事業者となって消費税を納税し売上に消費税を上乗せするか、それとも免税事業者となって消費税を納税せず売上に消費税を上乗せしないか、いずれかの選択をすることになります。

4 まとめ

  • ①ゼロ税率が実現してはじめて医療機関の損税が補填されます。
  • ②自費にかかる消費税は10%となり、10月治療終了分から適用されます。
  • ③2023年以降免税業者などは消費税を価格に上乗せできなくなります。

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