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家族の・家族による・家族のための民事信託2

経営に役立てる医院の会計と税務 税理士 三瀬 義男

 ここに掲載した記事は、それぞれ掲載時点の情報です。税制の改定や行政当局の新たな通知等によって、取扱いが変更されている事項が含まれている可能性があります。ご高覧にあたって、予めご了承ください。

【2017年2月】家族の・家族による・家族のための民事信託2

 引続き、信託について話そう。

 ある社長の悩みです。現在、大阪難波に時価4億の土地建物を所有しており、テナントビルとして運営しています。建物所有は社長が経営している同族法人であり、土地所有は社長と姉と妹の共有状態である。

先代の相続時に苦労

 社長は先代の相続時において大変な苦労を経験されました。
 大阪国税局の管理下のもと、10年以上の間、相続税の支払いを続け、さらに相続した土地はヤクザに占有され、その立ち退きのため、5年以上の法廷闘争に巻き込まれたのです。相続税負担と土地所有権をめぐり、社長の青春時代は、無間地獄のように時間を過ごされました。

次世代に
火種を残さない為に

 相続で苦労された社長だからこそ、ふと、新たな問題に気付きます。それが、土地の共有問題です。難波の土地は社長の1/2、姉の1/4、妹の1/4の持分です。姉の相続人は配偶者と子供合わせて4名であり、妹の相続人は配偶者と子供合わせてなんと、6名です。社長の相続人(後継者)は1名であるため、将来、最大11人の共有状態になります。
 さらに、その相続人が結婚し子供を産めば、共有者はさらに増え続けることになります。今は、3人仲良く問題ありませんが、将来世代はわかりません。一つトラブルが発生すると、大阪難波の一等地の価値は半減です。土地の処分はもちろん、不動産に関する争いの火種を残しかねません。

信託活用による解決策

 そこで、信託の登場です。信託の登場人物は前回、お話した通り、委託者・受託者・受益者です。それぞれ、各当事者を信託の登場人物にあてはめます。まず、委託者(財産を預ける人)は社長と姉と妹の3名です。次に受託者(財産を管理する人)は社長の経営している同族法人です。なぜ法人を受託者にするのか。法人は清算しないかぎり、消滅しないためです。法人の代表者を変更することで、間接的に不動産管理を永続的に行えることになります。そして受益者(賃料を受ける人)は土地の所有者である社長と姉と妹になります。
 ポイントは信託契約書に次の文言を入れておくことです。「当該信託不動産の受託者は○○法人が行い、管理・処分の決定権はすべて○○法人に帰属する。なお、不動産の賃貸収入は各持分により分配する」と記します。こうすることで、どんなに共有者が増えたとしても、不動産の経営権は受託者である同族法人が行えるということです。この最大のメリットは誰(共有者)の口出しも受けずに、事業に集中できることです。
 このような事例は不動産経営だけに起こる問題ではありません。診療・医療経営においても同様に起こり得ます。医療事業に利用している不動産・動産は後継者以外に持分が入ると事業に支障をきたす可能性があります。共有を前提としても、信託により“経営”と“果実(賃料)”の管理を別々に行うことで、ダイナミックな相続対策を可能にします。

 最終回は信託に関する税務についてお話します。

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