国税通則法「改正」で税務調査の何が変わるか-25年1月からの税務調査に備える
税理士 西村 博史
ここに掲載した記事は、それぞれ掲載時点の情報です。税制の改定や行政当局の新たな通知等によって、取扱いが変更されている事項が含まれている可能性があります。ご高覧にあたって、予めご了承ください。
【2012年12月】国税通則法「改正」で税務調査の何が変わるか-25年1月からの税務調査に備える
平成23年12月国税通則法が「改正」されたことにより、平成25年1月から「改正」国税通則法による税務調査手続きが開始されます。抜き打ち調査を法定化、取引先や従業員などにも調査の対象者を広げたことなど種々の問題点を有する「改正」を医科・歯科に対する調査の観点からレポートします。
改正のポイントは何か
今回の改正のポイントは、以下の5点にまとめることができます。
- 調査の開始にあたって、事前通知手続きが法定された。
- 再調査や事前通知なしの抜き打ち調査が法定された。取引先や従業員などにも調査の対象者を拡大した。
- 調査において、書面等の提示や提出を求めることが出来る事とされた。
- 調査において、帳簿書類その他の物件を税務署に留め置きすることができるとされた。
- 調査終了時、税務署が納税者に対して修正申告を勧奨することが出来る事となった。
再調査の検討から始まる税務調査
調査を開始する場合、過去に調査を終えた年度について再調査すべきかまず検討する、これが今回新たに定められた調査手順です。過去の調査以後に新規に情報や資料が得られた場合という限定付きですが、今後は既に調査が終わった年度についても再調査が実施されます。
重要な調査開始手続き
事前通知は、書面でなく電話等で行われます。この通知の一つでも欠けると、適正手続きを経ない違法調査となる可能性があります。この通知は、納税者と税理士の双方に対して行われます。調査日程等については、「納税者の都合を優先させるべきであり、私的用件、会社決算や税務申告作業に要する事務など合理的な理由を広く例示すべき」との意見を受け、日程を調整する旨の通達修正が行われています。
無予告調査には合理的理由の説明を求める
今回の「改正」では、事前通知のない無予告調査を国税通則法に明記しました。窓口で現金を取扱う医科歯科に対して、今後無予告調査が増加するかどうか、現状では予測ができません。事前通知をすることにより納税義務者が帳簿の破棄偽造する場合など、これらの行為が「合理的に推認」される場合に限って事前通知を要しないとしていますが、同時に、無予告調査は、税務署の当然の権限であるかの如く、無予告調査の理由は説明しないとしています。
しかし、事前通知は重要な納税者の権利です。もし、無予告調査があった場合には、無予告調査の「合理的な理由」の説明を求め、納得できない場合には、あいまいな承諾をせず「日をあらためて調査してほしい。」と家屋内に立ち入ることも断ります。但し「調査を拒否する」とは言わない事が重要です。あくまで事前通知を経た調査を要求します。
提示・提出は納税者の承諾が必要
今回の「改正」で提示・提出の規定が新設されるとともに、正当な理由なく求めに応じない場合には、罰則(1年以下の懲役又は50万円以下の罰金)が科されることになりました。医師・歯科医師の守秘義務、カルテなどが問題となります。
この点、国税庁は、「提示・提出をお願いする際には、提示・提出が必要とされる趣旨を説明し、納税者の方の理解と協力の下、その承諾を得て行うこととしています。」とし、「職務上の秘密についての守秘義務に係る規定(例 医師等の守秘義務)が法令で定められている場合においては、質問検査等を行うに当たっては、それらの定めにも十分留意する。」としています。
個別具体的にカルテ開示の必要性が説明される必要があります。その上で原則として守秘義務が課せられている書類については、従来通り提示も提出も断ります。納税者の権利を行使する納税者自身の権利意識が重要になります。
留置きが必要な場合を例示
従来、税務署が帳簿等を持ちかえる場合がありましたが、今回「留置くことができる」と法律に明記されました。ここでも、国税庁は「合理的と認められる場合に、留め置く必要性を説明し」「理解と協力の下、その承諾を得て実施する。」としています。
他方、「返還の求めに応じることができない場合には、その旨及び理由を説明」とされている事から、留め置かれた書類が容易に返還されない場合があり得ます。納税者は、持ち返りが承諾できない場合には、明確に断ることが重要です。
修正申告の勧奨には容易に応じない
修正申告は、納税者の自発的意思に基づくものであり、基本的に税務署がこれを強要するべきものではありませんが、今回、修正申告の「勧奨」という文言が法律に明記されたことで、税務署が納税者の意に沿わない修正申告を「勧奨」することが懸念されています。しかも、これらの税務署の主張は文書でなく口頭ですることになっています。納税者にとって認められない税務署の主張を「勧奨」される場合、納得できる点だけを修正申告し、納得できない点は税務署の「更正」処分を受け理由を明記させるのが最も納税者の立場に立った解決であるはずです。
重要な納税者の権利の主張
今回の「改正」は、提示・提出、留置き規定の新設など一見すると税務調査の権限が大幅に拡充されたように見えます。しかし、任意調査である以上、調査の手続き、方法、内容等のすべてにわたってその合理性必要性が明確でなければならないというのが過去の判例などの考え方です。今回の「改正」も勝ち取られた納税者の権利を侵害する事はできません。しかし、納税者の主張があいまいであると、今回の「改正」により税務署いいなりの税務調査となる可能性が高くなります。あらためて、納税者としての権利意識が試されるのが今回の「改正」であると言えるでしょう。
経営に役立てる医院の会計と税務
- 2022年12月26日【2022年12月】これからできる節税チェックポイント
- 2022年11月15日【2022年11月】続・令和5年3月末期限のインボイス発行事業者登録申請
- 2022年11月1日【2022年10月】令和5年3月末期限のインボイス発行事業者登録申請
- 2022年5月10日【2022年3月】令和4年度税制改正大綱③
- 2022年2月24日【2022年2月】令和4年度税制改正大綱②
- 2022年2月23日【2022年1月】令和4年度税制改正大綱①
- 2021年12月15日【2021年11月】令和3年分確定申告で注意すべきコロナ特例等
- 2021年10月14日【2021年10月】これからできる節税チェックポイント
- 【2021年9月】令和4年1月施行の改定電子帳簿保存法/紙保存できなくなる電子取引
- 【2021年8月】再考 専従者給与
- 2021年3月1日税理士の相続事件簿3 ~本当は怖い暦年贈与~
- 2021年2月1日税理士の相続事件簿2 ~物納戦略のススメ~
- 2021年1月1日税理士の相続事件簿1 ~とある経営者の悲惨な相続~
- 2020年10月1日今年の年末調整は改定が盛りだくさん 年収850万円を超える給与は増税に
- 2020年9月1日補助金・助成金の会計と税務〈下〉
- 2020年8月1日補助金・助成金の会計と税務〈上〉
- 2020年3月1日ある日突然訪れる「税務調査」~相続税編~③
- 2020年2月1日ある日突然訪れる「税務調査」~相続税編~②
- 2020年1月1日ある日突然訪れる「税務調査」~相続税編~①
- 2019年10月1日消費税改定と医業経営
- 2019年9月1日改正される年金の税制と会計
- 2019年3月1日2019年税制改正大綱を読み解く(3)
- 2019年2月1日2019年税制改正大綱を読み解く(2)
- 2019年1月1日2019年税制改正大綱を読み解く(1)
- 2018年11月1日医業でも可能な中小企業等経営強化税制の活用
- 2018年10月1日これからできる節税チェックポイント
- 2018年9月1日災害で税の減免を受ける
- 2018年3月1日相続税の世界を体感せよ!~医療法人の出資持分の承継方法~③
- 2018年2月1日相続税の世界を体感せよ!~小規模宅地の特例って…ナニ?~②
- 2018年1月1日相続税の世界を体感せよ!~ガラパゴス化!?する日本の相続税~①
- 2017年10月1日年末までの節税チェックポイント
- 2017年9月1日相続した空き家をどうしたら良いか―空き家の税務―
- 2017年8月1日配偶者控除が大幅改定どうなるパート社員の給与
- 2017年3月1日家族の・家族による・家族のための民事信託3
- 2017年2月1日家族の・家族による・家族のための民事信託2
- 2017年1月1日家族の・家族による・家族のための民事信託1
- 2016年11月1日所得拡大促進税制と決算対策
- 2016年10月1日今からできる年末までの相続対策
- 2016年9月1日マイナンバーこれからどうするか?
- 2016年3月1日幸せを遺す知恵の“話(ワ)”③
- 2016年2月1日幸せを遺す知恵の“話(ワ)”②
- 2016年1月1日幸せを遺す知恵の“話(ワ)”①
- 2015年11月1日決算対策8つのポイント
- 2015年10月1日改正されたふるさと納税制度
- 2015年6月1日いますぐ実践!財産の棚卸し③
- 2015年5月1日いますぐ実践!財産の棚卸し②
- 2015年4月1日いますぐ実践!財産の棚卸し①
- 2015年2月1日医業にも適用される投資促進税制
- 2014年12月1日償却資産税の再確認を
- 2014年8月1日増税後の消費税の損税問題を考える
- 2014年6月1日医業でも適用される所得拡大促進税制
- 2014年4月1日災害時の税務
- 2013年12月1日消費税増税に備える診療所の対策
- 2013年8月1日9月30日せまる消費税経過措置の期限
- 2013年6月1日新設された所得拡大促進税制と改定雇用促進税制
- 2013年4月1日教育資金贈与の非課税特例は慎重に
- 2013年2月1日平成25年分より適用される所得税の改正事項
- 2012年12月1日国税通則法「改正」で税務調査の何が変わるか-25年1月からの税務調査に備える
- 2012年10月1日税制改正と決算
- 2012年8月1日調査関連通達案公表で税務調査の何が変わるか
- 2012年6月1日マイナンバー法案の危険性
- 2012年4月1日確定申告後の注意点
- 2012年2月1日改正税法、今年度確定申告はこの点に留意を
- 2011年12月1日国税通則法「改正」で変貌する税務調査と医業税制
- 2011年10月1日注意したい決算事項
- 2011年8月1日平成23年度税制改定
- 2011年6月1日義援金と新寄付金控除税制
- 2011年2月1日扶養控除の改定
- 2010年12月1日共通番号制の危険なねらい
- 2010年10月1日決算の準備と対策
- 2010年8月1日平成22年度税制改定
- 2010年6月1日小規模企業共済制度の改正
- 2010年4月1日現物給与の会計と税務
- 2010年2月1日増改築と住宅税制
- 2009年12月1日お役立ち確定申告情報
- 2009年10月1日法人成りの税務会計
- 2009年8月1日税額控除を有利に利用する
- 2009年6月1日平成21年度税制改正
- 2009年4月1日消費税の基礎知識
- 2009年2月1日税引後所得を理解する
- 2008年12月1日年末調整と従業員給与の取扱
- 2008年10月1日相続税の大改正と生前贈与の税務
- 2008年8月1日MS法人との会計税務
- 2008年6月1日変わるリース会計と税務
- 2008年4月1日還付申告の税務と会計
- 2008年2月1日診療所賃借の会計と税務
- 2007年12月1日平成19年分決算の重要事項
- 2007年10月1日予定納税の会計と税務
- 2007年9月1日扶養親族の税務
- 2007年8月1日固定資産税の税務
- 2007年7月1日従業員の住民税と税務調査
- 2007年6月1日変わる減価償却制度
- 2007年5月1日ゴルフ会員権の会計と税務
- 2007年4月1日損害保険の税務
- 2007年3月1日確定申告と住民税
- 2007年2月1日税務調査(2)
- 2006年12月1日税務調査(1)
- 2006年11月1日平成18年分決算の重要事項
- 2006年9月1日親族間経費の税務と会計
- 2006年8月1日損害賠償金の税務と会計
- 2006年7月1日平成18年度税制改正を解説
- 2006年5月1日MS法人などに新たな課税-新設された特定支配同族会社課税制度
- 2006年4月1日確定申告後の年間納税額と資金計画
- 2006年3月1日税務調査と会計ソフト
- 2006年2月1日本年確定申告の注意点
- 2006年1月1日新規消費税課税業者の注意点
- 2005年12月1日パート従業員の雇用と税務
- 2005年10月1日医業税制の焦点と課題〈その4〉措置法26条
- 2005年9月1日医業税制の焦点と課題〈その3〉岐路に立つ事業税非課税制度
- 2005年8月1日医業税制の焦点と課題〈その2〉消費税(後編)
- 2005年7月1日医業税制の焦点と課題〈その1〉消費税(前編)
- 2005年6月1日家事関連費の会計と税務
- 2005年5月1日「人材投資促進税制」続報を解説
- 2005年4月1日17年度新税制「人材投資促進税制」とは
- 2005年3月1日専従者給与の活用と注意点
- 2005年2月1日本年確定申告の注意点
さらに過去の記事を表示