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調査関連通達案公表で税務調査の何が変わるか

経営に役立てる医院の会計と税務 税理士 西村 博史

 ここに掲載した記事は、それぞれ掲載時点の情報です。税制の改定や行政当局の新たな通知等によって、取扱いが変更されている事項が含まれている可能性があります。ご高覧にあたって、予めご了承ください。

【2012年8月】調査関連通達案公表で税務調査の何が変わるか

 国税庁は、先に改正された国税通則法の解釈通達案を提出しました。戦後初めて、税務調査に関する統一的通達が制定される事になります。平成25年1月から運用されることになる通達案の問題点について、医院経営の観点から考えます。

任意調査とは何か

  税務調査は、脱税など犯罪を摘発する目的の査察調査と、納税者の同意と協力の下に行われる任意調査に区分されます。通常の調査は、すべて任意調査です。税務署は税法に定める質問検査権を行使して調査を行いますが、査察調査とは異なり直接の強制力(臨検、捜索、差押)はありません。正当な理由なく調査を拒否した場合のみ、罰則が定められています。任意調査で、最も重要なのは、納税者の同意と協力です。今回の通達案では、任意調査とは何かについて記載がなく、大きな問題点を抱えています。

カルテの提示は必要か

  帳簿書類以外にも、「調査の目的を達成するために必要と認められる」「物件」が調査の対象として記載されています。問題は、「物件」にカルテやパソコン内部の資料などが含まれるかどうかです。カルテは、個人情報そのものであり守秘義務が課せられる以上提示提出するべき物件ではありません。また、パソコン等も、合理的必要性がない場合には当然提示提出する義務はありません。また、日ごろから書類等の保存を心がけ、いたずらに資料提出を求められる事がないように準備が必要です。

留置きは任意規定

  新国税通則法では、新たに納税者から提出された「物件」の留置き規定が新設されました。あたかも、職権で「物件」を提出させるかのような規定ですが、これも任意規定である事に変わりはありません。

  また、「留置き」の期間の記載がない事、納税者が返還を求めた場合には当然に返還すべきである事が記載されていないなど不備が目立ちます。

反面調査に言及せず

  国税通則法では、納税者の取引先や仕入先に対しても質問検査権が及ぶと記載しています。いわゆる反面調査と呼ばれるもので、納税者本人だけでなくその取引先に対しても調査をする場合があるという事です。反面調査は、納税者の社会的信用や立場に配慮し、納税者の同意と了承のもとにやむを得ない場合に限り行われるべきものです。通達案では、反面調査について何ら記載せず、税務署の都合と職権により無制限に行う事を想定しているかのようです。

  納税者の信頼と了承の下、納税者権利憲章を制定し、国民が納得のいく税務調査が行われるべきです。

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