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マイナンバー法案の危険性

経営に役立てる医院の会計と税務 税理士 西村 博史

 ここに掲載した記事は、それぞれ掲載時点の情報です。税制の改定や行政当局の新たな通知等によって、取扱いが変更されている事項が含まれている可能性があります。ご高覧にあたって、予めご了承ください。

【2012年6月】マイナンバー法案の危険性

 現在、国会に「行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律案(マイナンバー法案)」が提出されています。今回は、消費税増税と歩調を合わせたこの法案について、医院経営の観点から考えます。

マスターキー制度

 今回のマイナンバー制度は、医療や年金、税など各種制度ごとに散在する個別の番号を統合するマスターキーの役割を果たすものとされています。
 平成26年6月国民全員に個人番号が、法人には法人番号が割り振られ、平成27年から運用が開始される予定です。
 当初は、医療、雇用、年金、税務申告及び徴税、防災などの分野に限定して利用される事となっています。

医院窓口では

 実際に運用が開始されると、患者は自己の番号を告知して医療給付を受け、他方金銭授受に際して医院は自己の番号を患者に告知する義務があるとされています。
 患者の治療実績は厚生労働省に収集蓄積され、また保険自費を問わず全ての医院の診療報酬情報が番号により特定される事になります。

法案の趣旨は何か

 政府の説明では、この制度導入により、高額療養費の支給決定が迅速化され、医院窓口ではオンラインで保険情報確認が可能となる事によりレセプト作成作業が正確となり過誤調整が減少するなどの活用例が挙げられています。
 税務署が収集する55種の法定調書についても番号により名寄せされるため国民の所得の捕捉が正確になり、消費税導入に際しては、逆進性を緩和する低所得者への給付付き税額控除が機能すると説明されています。

イギリスでは制度を廃止

 番号制をどんなに活用しても、国外所得や事業所得の完全な補足は不可能である事は政府が認めています。また格差社会の象徴となる株式や預貯金などの財産の名寄せが出来なければ配当など資産所得の把握はできませんが、現状では財産の名寄せは予定されていません。海外や資産などの巨大な所得は何故か補足されないままです。
また、医療、年金、雇用、生活保護など社会保障全般にわたり給付と負担を個人単位で把握する「社会保障個人会計」導入が可能となるなど、受益者負担の考えによる制度運用こそが危惧されます。
イギリスでは国民ID番号制を廃止したと報道されています。医院と患者の膨大な個人情報を政府官僚の手にゆだねる危険性こそ論議されるべきではないでしょうか。

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