医業税制の焦点と課題〈その3〉岐路に立つ事業税非課税制度
税理士 西村 博史
ここに掲載した記事は、それぞれ掲載時点の情報です。税制の改定や行政当局の新たな通知等によって、取扱いが変更されている事項が含まれている可能性があります。ご高覧にあたって、予めご了承ください。
【2005年9月】医業税制の焦点と課題〈その3〉
岐路に立つ事業税非課税制度
医業税制の焦点について、今回はその存続が危惧される事業税非課税措置の問題点を検討します。
事業税とは、「事業」を課税客体として、個人及び法人に課税される都道府県民税です。
現状では、社会保険診療報酬については非課税とされています。しかし、政府の対応は、従来「引き続き検討する」とされてきましたが、平成12年の政府税制調査会答申からは「その見直しを検討」、更に平成14年度以降「速やかにこれを撤廃すべきである」と変化し、状況は最近とみに厳しさを増しています。
繰り返される廃止論議
昭和27年に非課税制度が確立して以来、非課税廃止論議が繰り返されています。近年では、昭和58年、昭和60年、平成3年と頻繁に廃止論議が生じているのが特徴です。特に昭和60年自治省を中心として非課税措置見直しが画策され、結果的に新聞等の一定の事業の非課税措置が廃止されています。当時自治省は、社会保険診療が普及したことと租税負担の公平化を理由に医業についても廃止を主張しましたが、保団連、医師会等は、医療の公共性、非営利性を掲げてこれを打ち破り、非課税措置存続を勝ち取った経緯があります。
事業税廃止で増税額は
事業税が廃止された場合の増税額について、筆者の試算では、別表の通りとなります。例えば、社会保険診療報酬についての非課税所得(収入-必要経費)が2000万の階層では、事業税だけでは約85万円の増税となります。他方、事業税は翌年の所得金額の計算上必要経費となり所得税住民税が軽減されるため、差引約49万円が純増税額となります。しかし、非課税措置が撤廃された初年度には、約85万円の事業税を納税しなければなりません。
但し、所得税について措置法26条の適用を受けている場合には、事業税は増加しても所得税や住民税は減少しません。現行措置法26条では、社会保険診療報酬に係る経費は概算控除され、事業税増税額もその「枠」に織り込み済みとなるからです。
医業の非営利性、公共性とは
近年、株式会社参入問題等、医業を安易に営利資本の手に委ねる道を開く論議が行われています。事業税非課税撤廃論は、実はこうした論議と軌を一にし、医業は「事業」であるとの前提に立っているのです。事業税は、営利事業に課せられる応益負担税制です。他方、医業は医師法により営利目的が否定されている極めて公共性が高い業務と言えます。また憲法25条で保障される生存権や社会保障を実現する必須の役割を果たしています。
国民と共に歩む医療制度を更に充実するためにも、事業税非課税問題は重要な課題となっているのです。
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