奈良県保険医協会

メニュー

税理士の相続事件簿2 ~物納戦略のススメ~

経営に役立てる医院の会計と税務税理士法人あおば
三瀬 義男

 ここに掲載した記事は、それぞれ掲載時点の情報です。税制の改定や行政当局の新たな通知等によって、取扱いが変更されている事項が含まれている可能性があります。ご高覧にあたって、予めご了承ください。

【2021年2月】税理士の相続事件簿 2 ~物納戦略のススメ~

 ある事務所の会議室にて。

 依頼者A:「先生、どうにかなりませんか?私、3860万円の相続税、払えません!今後の事業の資金繰りや母親の生活費を考えると相続預金は手元に残しておきたいです。」

 税理士:「亡きお父様の相続財産は、預金1億6000万円、甲土地1億2000万円、乙土地4000万円ですよね。そして、相続人はAさんとお母様の2人ということ。」

 依頼者A:「乙土地で物納はできませんか?乙土地は、遊休地で何も利用していません。乙土地4000万円の評価だから、ちょうど、相続税3860万円を充当できますよね。」

 税理士:「残念ながら、預金1億6000万円があるため、その預金から相続税を負担して頂くことになります。」

さて、困ったぞー。皆さん、この税理士の助言は正しいでしょうか。

 まず、物納するための要件を確認します。相続税は、金銭で納付することが原則です。しかし、延納によっても金銭で納付することを困難とする事由がある場合には、納税者の申請により、その納付を困難とする金額を限度として一定の相続財産による物納が認められています。

 簡潔にいえば、お金(現預金)がない場合に限って、物納を認めるということです。相談者Aさんの場合は、税理士の言う通り、1億6000万円の預金があるため、物納は絶望的になります。

 ただ、諦める必要はありません。遺産分割の方法によって物納できる可能性があります。つまり、相続税は遺産取得課税体系であるため、相続人は取得した財産に応じて、各人が相続税を負担します。ということは、遺産分割方法によって、物納条件を作り出すことができます。

 例えば、預金1億6000万円は母親に相続させ、甲土地と乙土地はAさんが取得する。そうすると、Aさんは預金が一切ないため、金銭納付困難事由に該当し、乙土地の物納が許可されます。さらに、その場合、払い過ぎた税金140万円が金銭で還付されます。

 このように、遺産分割の方法において、預金の取得者を変えることにより、金銭困難な者を意図的に設定することが可能です。一般的に、相続財産の中に預金があると、物納はできないという固定観念がありますが、遺産分割の在り方によって、物納許可の可否が異なることをぜひ、覚えておいてください。

 最後に、物納を活用するケースをご紹介します。条件は相続時の相続税評価額が納税時の売却時価を上回るケースです。この場合、現物を売却して現金に換えて納税するよりも、評価額の高い現物で納税する方が税引き後手取り額の面において有利になります。物納できる財産は、不動産だけでなく、上場株式も選択できるので、より柔軟な物納の活用をお勧めします。

経営に役立てる医院の会計と税務

さらに過去の記事を表示