相続税の世界を体感せよ!~医療法人の出資持分の承継方法~③
税理士 三瀬 義男
ここに掲載した記事は、それぞれ掲載時点の情報です。税制の改定や行政当局の新たな通知等によって、取扱いが変更されている事項が含まれている可能性があります。ご高覧にあたって、予めご了承ください。
【2018年3月】相続税の世界を体感せよ!~医療法人の出資持分の承継方法~ ③
事業承継対策は、相続税対策です。
例えば、日本の企業数の99%を占める中小企業の多くが廃業の危機に立たされています。中小企業の70歳以上の経営者245万人のうち、約半数の後継者が未定です。このままでは、約22兆円の国内総生産(GDP)が失われる恐れがあります。
こうした背景をもとに、平成30年の税制改正において、中小企業者が保有する株式の相続税について、全株、納税猶予・免除制度を新たに創設しました。この制度により、早期に株式を後継者に移転させ、スムーズな事業承継を可能にします。ただし、この規定は、あくまでも、株式会社に限定されています。
では、医療法人の場合はどうか。目的は違いますが、医療法人の出資持分にも納税猶予・免除制度があります。
医療法人の出資持分は、平成26年税制改正により「認定医療法人制度(持分なし医療法人)」が創設されました。認定医療法人とは、良質な医療を提供する体制の確立を図るための医療法等の一部を改正する法律に規定される移行計画について、認定制度の施行の日から3年以内に厚生労働大臣の認定を受けた医療法人をいいます。
この制度期間は平成26年10月1日から平成29年9月30日までの3年間(当初)で、この間に認定を受けた法人は、出資者にかかる相続税の納税が猶予されます。認定を受けてから3年間の間に移行計画を完了し「持分なし医療法人」へ移行できれば、納税額(贈与税・相続税)は免除になります。
しかし、結果としてこの制度は全く進みませんでした。平成26年10月の制度開始から平成28年の3月まで認定を受けた法人は61件、うち移行完了は13件しかない。この制度が機能しない最大の理由は、相続税・贈与税は猶予・免除となるが、医療法人側の税負担リスクを回避できないことにあります。
本来であれば、平成26年税制改正で創設された3年間限定の認定医療法人で、医療法人に対する相続税・贈与税対策、基金拠出型医療法人への移行促進については完了する予定でした。ところが、全くもって、移行はほとんど進みませんでした。
そこで、平成29年税制改正により「新 認定医療法人」(第2次キャンペーン)が設けられました。新しい認定医療法人の最大の特徴は、医療法人に対する課税問題に対して手当されたことです。つまり、「新 認定医療法人」の完了にともない、相続税・贈与税・医療法人に対する課税のすべてが免除になります。さらに、要件についても一部、緩和されています。
当然、今後、「新 認定医療法人制度」に移行すべきかどうかの判断は、税務面だけでなく、経営判断の要素も必要になってきます。ただ、内部留保が高く、業績の良い医療法人にとっては、今後の出資金に対する相続税の負担を顧慮して、ぜひとも検討して欲しい制度です。1千万円で出資した持分が、10億円分の含み益をもっていたとしても、10億円として容易に換金することはできません。しかし、相続税は10億円分の価値として税金が課税されます。その税負担が免除になり、医業経営のスムーズな承継体制が確立できるのであれば、検討に値する制度といえるはずです。
皆様の相(すがた・想い)が後継者へバトンタッチされ、世代を超えて続く医療事業を願います。
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