共通番号制の危険なねらい
税理士 西村 博史
ここに掲載した記事は、それぞれ掲載時点の情報です。税制の改定や行政当局の新たな通知等によって、取扱いが変更されている事項が含まれている可能性があります。ご高覧にあたって、予めご了承ください。
【2010年12月】共通番号制の危険なねらい
去る11月25日政府税制調査会専門家委員会は、「納税環境整備PT報告書」(以下単に報告書)を公表しました。「社会保障・税に関わる番号制度」で社会福祉は良くなるのかの論議はさておき、取引に際して共通番号を通知する事が義務化されるなど、国家による監視社会を招く危険な内容が盛り込まれています。今回は、報告書に記載された共通番号制のねらいを取り上げます。
共通番号制とは
現状でも、税務署は納税者すべてに納税者番号を付与し番号により個人所得を管理しています。同様に年金や保険に関しても個別の番号が付与されています。政府は、これらの番号を共通の番号に統合し、国民全員に対して悉皆(しっかい)的に番号を付与する事を検討しています。これにより、所得の大小や家族構成など個人の状況に応じたきめ細かい社会保障が実現するという趣旨です。社会保障が充実することは歓迎すべき事ですが、国税庁はこれに乗じて国民相互で税務情報を通知しあう制度を義務化しようとしています。
番号の告知と記載を義務化
具体的には、①納税者に悉皆的に番号を付与、②各種の取引に際して納税者が取引の相手方に番号を「告知」することを義務付ける、③取引の相手方が税務当局に提出する法定調書や申告書に番号を「記載」することを義務付ける、④あわせて法定調書の拡充と電子データーでの提出の義務付け、⑤法定調書への正確な番号記載の確保策を検討する、⑥更に民-民-官の関係で利用できることを検討することなどが盛り込まれています。つまり、商取引の際には自分の番号を相手方に告知をし、告知を受けた場合にはその番号を法定調書に記載して税務署に届け出る制度の新設です。場合によっては罰則を伴う強制的な制度となる可能性が高いと考えられます。
反面調査と予告なき税務調査も
報告書では、番号制以外にも、税務調査の事前通知制度を拡充するとしています。しかし、その内容は、抽象的な通知義務を法律化するのみで事前通知の有無の判断を税務通達にゆだねるなど到底権利としての事前通知とは言えません。また、報告書では反面調査に言及していますが、反面調査が納税者の信用や経営に与える影響には一切言及せず、あたかも税務署の裁量次第で自由に行えるかのような書きぶりです。
注目される税制改正大綱
以上の報告書の内容は、間もなく税制改正大綱に記載され平成23年度改正税法等となることが予想されます。利便性のみで税や社会保障を判断するのではなく、税制や社会保障に関して国民の権利が侵害されない事が重要です。納税環境の整備を行うのであれば、まず納税者の権利規定を大幅に拡充し、納税者に対する信頼を前提とした民主的な税務行政を確立する事こそが先決です。
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