損害賠償金の税務と会計
税理士 西村 博史
ここに掲載した記事は、それぞれ掲載時点の情報です。税制の改定や行政当局の新たな通知等によって、取扱いが変更されている事項が含まれている可能性があります。ご高覧にあたって、予めご了承ください。
【2006年8月】損害賠償金の税務と会計
近年、医療紛争事案は年々増大し、裁判所での紛争事案だけでも10年前の約2倍の1,000件程度に達するとの報道がなされています。裁判事案に至らない示談を含めればその3倍になるとの推計も存在する状況です。今回は、医療紛争をめぐる税務と会計について検討します。
医師賠償責任保険の税務
万一の紛争に備える医師賠償責任保険(以下医師賠責保険)には、大多数の医師が加入しています。この医師賠責保険は、医業という事業に関して医業に関連する過失等だけを担保する保険です。従ってこの保険料は、医業所得の計算上その全額が必要経費となります。
また、医療紛争に際して受取った保険金は、医師が患者等に賠償した損害賠償金という経費を補填するものです。結果的に、損害賠償金という経費から差引かれ、経費が減少するだけですから、保険金収入そのものに課税関係は発生しません。
但し、医師賠責保険は、交通事故損害賠償保険のように保険会社が示談代行を実施してくれない場合が殆どです。医師自らが患者等との示談をする必要があり、その精神的経済的損失までは補填しない事に留意が必要です。
損害賠償金の税務
患者との紛争を防ぐためには、医療水準の確保、院内事故情報の院内での共有と周知徹底、チーム医療の体制確立、更には既往症等の患者情報の適格な把握と告知受託等が必要であると言われています。
しかし、これらの努力にかかわらず医療紛争が生じ損害賠償金の支払が生じた場合には、保険会社や弁護士等の専門家のアドバイスも受けながら、適切な示談書を作成する事になります。
これらの損害賠償金について税法は、「故意又は重大な過失」に基づくもの以外は医業の所得上必要経費となると定めています。
賠償金はどの年分の経費か
損害賠償金は、通常示談書作成を行った年分の必要経費とされます。しかし示談書作成前に、損害賠償金の前払や内払を実施した場合には、その支払った年分に於いて必要経費とする事も認められています。医業所得の金額の多寡にもよりますが、通常は内払金等をその支払った年分で必要経費とするのが有利なケースが多いと思われます。
重要な事は、これらの損害賠償金は、示談書が成立した年分や支払った年分でなければ必要経費とはならない点です。即ち、失念等により過去のものとなった損害賠償金をその後の年分に必要経費にする事はできないので留意が必要です。
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