勝手に早く来るスタッフに時間外手当を支払うべきか【2023年1月】
雇用問題Q&A 社会保険労務士 曽我 浩
「月刊保団連」の好評連載記事から、著者および発行元の許可を得て転載して紹介します。
なお、ここに掲載した記事は、それぞれ掲載時点の情報です。関係法令の改定や行政当局の新たな通知等によって、取扱いが変更されている事項が含まれている可能性があります。ご高覧にあたって、予めご了承ください。
勝手に早く来るスタッフに時間外手当を支払うべきか【2023年1月】
Q
当院は午前8時50分始業で9時開院です。命令もしないのに30分以上前に出勤して、タイムカードを押して着替え以外は何もしないスタッフがいます。この時間の累計が1カ月で10時間になり、時間外手当を支払っています。この場合、時間外勤務となるのでしょうか。
A
まず、押さえておいていただきたいのは、労働時間とは何かということです。労働基準法に労働時間の定義はありませんが、過去の判例で確立しており、管理監督されている時間のこととされています。
2017年には、厚生労働省が「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」を策定しました。使用者には労働時間を適正に把握する義務があることが明記され、労働時間とは「使用者の指揮命令下に置かれている時間」とされました。
Q
命令もしていないのに早めに来ている時間はどうなのですか。このスタッフの場合、始業の8時50分までは、使用者に管理監督されている時間ではないと思いますが。
A
このまま放置しておけば、使用者がそれを黙認していることになります。ガイドラインに書かれている「使用者の明示又は黙示の指示により労働者が業務に従事する時間」となり、労働時間と見なされます。
Q
それでは時間外手当を支払わなければいけないのですか。
A
このまま放置すればそうなります。最近、この種のトラブルを避けるために、就業規則などで許可のない早出は認めないとしているところもあります。
例えば「前申請・許可のない場合は、時間外勤務とは認めませんので、定められた時刻に始業するようにしてください」と通知している事業所もあります。
つまり、労働者には働く権利ではなく働く義務があり、使用者には働かせる権利があるということです。従って、経営者の都合で働かせられないときは、休業手当を支払う義務が生じるわけです。
Q
医療機関ですから業務上私服から白衣に着替えることが必要です。この時間を何分と想定するのが妥当でしょうか。
A
常識の範囲で決めるしかないと思います。無難な言い方をすれば「平均的な労働者が平均的にかかる時間」ということになります。
とはいえ、コロナ対応の防護服などの着用にはかなり時間がかかると思います。また、ハンディキャップのある人がいれば、平均的な労働者よりも時間がかかる場合もあります。常識を踏まえつつ、実態に合わせて決める必要があります。
Q
その場合、労使間で協定など必要ですか。
A
協定でもいいと思いますが、経営者にはそこまでの義務はありません。労働条件通知書による通知でもいいのです。通知で大切なことは従業員に周知することです。周知していない場合は無効になり、時間外手当を支払わなければならなくなります。
通知文の見本はネット上でも見つかります。社会保険労務士法人曽我事務所のホームページおよびYouTubeに動画をアップしているので、そちらも参考にしてください。
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