採用のとき病歴について聞けるか
雇用問題Q&A 社会保険労務士 曽我 浩
「月刊保団連」の好評連載記事から、著者および発行元の許可を得て転載して紹介します。
なお、ここに掲載した記事は、それぞれ掲載時点の情報です。関係法令の改定や行政当局の新たな通知等によって、取扱いが変更されている事項が含まれている可能性があります。ご高覧にあたって、予めご了承ください。
採用のとき病歴について聞けるか
【2006年11月】
Q
私の友人が採用面接で病歴について応募者に聞いたところ、職安から「病歴について聞いてはいけない」と注意されたといっています。
医療機関の仕事はハードですし健康な人を雇いたいと思っていますが、病歴について採用の際応募者に聞いてはいけないのでしょうか。
A
そんなことはありません。労働力も商品です。どんな商品も欠陥があれば受け取りを拒否します。健康に問題があれば不十分な労務提供しかできないわけです。あまりひどければ採用しない訳ですから、病歴について聞くのは当然だと思います。
Q
でも、職安発行のパンフレットには「そういうことをしてはいけない」と書いてあるそうですよ。
A
それは「厚生労働省」発行の「公正な採用選考めざして」のことだと思います。しかし、そこには「合理的・客観的に必要ない健康診断」をしてはいけないと指摘しているだけであって、採用面接時に病歴について聞くことを禁止しているわけではありません。
Q
個人情報保護法の関係ではどうなのでしょうか。
A
その点は、トラブルになる可能性がありますから「健康告知書」を提出してもらい、その際「就職を希望するに当たり、自分の健康状態を以下のように告知します。また、選考段階において健康状態をチェックすることに対してなんら異議申し立てをおこなわないことを誓約します。」という誓約書をいただいておくことです。
Q
病歴など聞いても正直に言わない可能性もあります。採用に際して自分に不利なことを正直に言わないのではないでしょうか。
A
それは、そうです。しかし、それがあとでウソとわかったとき、やむを得ず病気で退職してもらうとき、争いになったときは使用者に有利になります。聞かなければウソはつきようがないわけですから。
Q
採用の際、健康状態を聞くのは私も当然と思いますが、職安は採用の際の健康情報についてどのようなことを気にしているのでしょうか。
A
よく言われているのは血液検査です。この検査により応募者の適正と能力判断する上で必要でない事項を把握する可能性があるからです。
Q
しかし、最近は何らかの持病を持っている人も多く、健康状態に異常なしという人を探すのに苦労します。その他採用に際して注意することはあるでしょうか。
中途採用者には退職理由を徹底的に聞こう
A
われわれ中小の事業主は新卒を採用するということはあまりありません。中途採用が通常行われます。この際大切なことは学校をでてからの各職場での退職理由を徹底的に聞くことです。前にもこの欄で紹介しましたが、トラブルを起こして退職した人はかなり高い確率でもってまたトラブルを起こします。
Q
今まで勤めたところの退職理由を全て聞くのでしょうか。
A
そうです。なるべく詳細に聞いたほうがいいと思います。経営者側の立場から労使トラブルや解雇問題を多く取り扱っている弁護士に聞きますと、やめた理由を徹底的に聞くだけでトラブルの8割は防げるということです。それと退職を繰り返す人はやはり注意したほうがいいでしょう。
Q
それにしても採用は難しいです。何か良い方法はありませんか。あなたは労務のプロなんだから何かあるでしょう。
A
労務のプロなどととても言える状態ではありません。引っかかるところがあっても、それがそんなに深刻なものと考えずに雇ってしまい、後で「何であの時引っかかったことを重視しなかったのだろう」と後悔することがあります。中途採用ではどの経営者も苦労しています。最後は経営者の直感ではないでしょうか。
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