奈良県保険医協会

メニュー

雇用期間満了まであと半年の職員を解雇できるか【2022年12月】

雇用問題Q&A 社会保険労務士 曽我 浩

 「月刊保団連」の好評連載記事から、著者および発行元の許可を得て転載して紹介します。
 なお、ここに掲載した記事は、それぞれ掲載時点の情報です。関係法令の改定や行政当局の新たな通知等によって、取扱いが変更されている事項が含まれている可能性があります。ご高覧にあたって、予めご了承ください。

雇用期間満了まであと半年の職員を解雇できるか【2022年12月】


 元事務長を60歳から再雇用で一般の事務職にしました。ところが、事務がからきし駄目で無駄口が多く、同僚の仕事を妨げます。さらに医院長である私の悪口も言っているようです。雇用期間が、あと半年残っていますが解雇しようと思います。


 今の日本では「医院長の悪口を言う、能力がない」というだけでは、裁判になれば解雇はまず認められません。
 私が相談を受けた事例です。ある会社の社長が、能力がないという理由で社員を解雇しました。1年間裁判で争うことになり、優秀な弁護士に頼みましたが完敗でした。かなり高額の弁護料を支払い、その間の給料もさかのぼって支払うことになりました。


 私の知人の外資系の保険会社では、かなり頻繁にトラブルなく解雇が行われているそうです。


 そういうところでも、裁判になれば、経済的にも労力的にも大きな負担を強いられることになります。
 また、外資系の会社の多くは、日本とは異質の雇用文化を持っているためトラブルにならないことがあります。


 異質の雇用文化ですか?


 よく日本では「就職」ではなく「就社」といわれているように、仕事・能力を特定せず社員を採用します。


 「仕事・能力を特定せず」とは、どういうことですか。


 日本の多くの企業では、仕事内容を明確に定義し「仕事内容と報酬をきっちり結び付ける」ような雇用契約を交わしません。業務内容も大雑把に決めています。
 簡単な仕事から始め、徐々に仕事の範囲を広げていくような働き方です。特定の仕事と決めずに新卒一括採用し、徐々に適性を見極め配置していくのが典型的です。
 そのため、能力不足を理由として解雇する前にあらゆる雇用維持の可能性を試みることが求められます。しかし、日本では解雇が難しい代わりに、欧米では契約違反とされてしまうような配置転換は比較的自由です。


 いろいろな仕事にチャレンジさせ、能力を発揮させるチャンスを与えなければいけないということですか。


 そうです。単に能力がないといっても、裁判所の受け止めと、雇用主の常識とではかなり隔たりがあります。


 この職員はミスも多く、パソコンもろくに操作できません。あと半年で65歳になりますし、先代からの職員でもあるので辛抱してきましたが、もう我慢できません。給料は支払うから雇用期間が満了するまで出勤しなくていいということにすればどうですか。


 それは可能です。憲法第27条では「すべて国民は、勤労の権利を有し、義務を負ふ」となっています。しかし、労働者には働く義務はあっても働く権利はありませんし、経営者には働かせる権利がある代わりに賃金を支払う義務があります。従って経営者は正当な報酬を支払えば働かせなくてもよいことになります。
 労働基準法に定められている「平均賃金」の6割以上の休業手当を支払えばよいことになっています。

雇用問題Q&A

さらに過去の記事を表示