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従業員が無視をする。「逆モラハラ」ではないか【2022年2月】

雇用問題Q&A 社会保険労務士 曽我 浩

 「月刊保団連」の好評連載記事から、著者および発行元の許可を得て転載して紹介します。
 なお、ここに掲載した記事は、それぞれ掲載時点の情報です。関係法令の改定や行政当局の新たな通知等によって、取扱いが変更されている事項が含まれている可能性があります。ご高覧にあたって、予めご了承ください。

従業員が無視をする。「逆モラハラ」ではないか【2022年2月】


 従業員7人の小さな診療所です。受け付け業務や日常業務を行っている従業員の1人が最近こともあろうに医院長の私にろくに返事をしなかったり、私に対する不満を言いふらしたりしているようです。これはよく言われている「逆モラハラ」ではないでしょうか。


 職場で起きるモラルハラスメントは多岐にわたります。同僚や部下が話し掛けても無視する。相手の容姿や人間性・能力の否定。その家族の悪口。周囲に人がいるところでの叱責の繰り返し。必要以上の長時間の叱責。本人に聞こえていると分かっていての悪口、陰口。理由のない仕事外し。職場の人間関係からの切り離し。職場外での行動の監視。必要のないプライベートへの立ち入り等々です。
 今回の事案はそんなに深刻なものではない可能性もあります。何か思い当たることはありませんか。


 そういえば、最近入ってきた若い従業員が仕事も早く正確なので、そちらに仕事を頼むことが多くなりました。その新人をみんなの前で褒めたことがあります。


 それが原因の可能性もありますね。


 ベテランなのだから、自分で仕事を見つけて自覚的に取り組むのが当然ではないですか。


 小規模診療所の場合、職務分担が明確でないこともあります。誰もが自覚的に仕事ができるわけではありません。ある程度は役割分担を決めることは必要です。


 しかし、何から何まで私が細かく指示するわけにはいきません。


 この事案では自分が低く評価されたと思ったのではないでしょうか。私も診療所を退職した従業員から退職理由を聞くことがありますが、「先生は私のことを評価してくれなかった」という不満をよく聞きます。今回の事例はモラルハラスメントなどという大げさなものではなく、先生の何気ない言動で、その従業員が不満を感じたことにあるのではないでしょうか。先生にとっては何気ないことでも、従業員当人にとっては人生を否定されるほどの強いショックな出来事だったのかもしれません。


 私が勤務医の頃は先輩にかなりひどいことを言われましたよ。


 それは評価しているからこそのことだったのかもしれませんが、今の時代は言葉遣いにも配慮が求められます。


 従業員を評価することは難しいですね。


 確かにそうですが、やらないわけにはいきません。人はどう評価されるかで発揮する能力が大いに変わることは確かです。中国の2000年前の古典『戦国策』に「士は己を知る者のために死す」とあります。これは自分を評価してくれた主君の仇を命懸けで取ろうとした義士の話です。評価してくれた人のために尽くす、これは昔も今も変わらないのです。
 今の段階では、評価しているというメッセージを伝え「褒めて・認めて・励まして」も有効です。評価されないと嘆く人はたくさんいます。「人並みの才に過ぎざるわが友の深き不平もあはれなるかな」。これは最近の短歌ではありません。120年以上前の石川啄木の歌です。

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