奈良県保険医協会

メニュー

院長が仕事でコロナに感染したら、労災保険は使えるか

雇用問題Q&A 社会保険労務士 曽我 浩

 「月刊保団連」の好評連載記事から、著者および発行元の許可を得て転載して紹介します。
 なお、ここに掲載した記事は、それぞれ掲載時点の情報です。関係法令の改定や行政当局の新たな通知等によって、取扱いが変更されている事項が含まれている可能性があります。ご高覧にあたって、予めご了承ください。

院長が仕事でコロナに感染したら、労災保険は使えるか
【2021年1月】


 夫はクリニックの院長をしています。職員は10人です。医療機関向けガイドラインに沿ってきちんとコロナ感染対策をしています。患者さんにも予約制でお願いしています。それでも多くの患者さんが来院する中で、新型コロナウイルスに感染しないとは限りません。仮にスタッフや院長が感染したとき、労災保険は使えるのでしょうか。


 今のところ業務外で感染したことが明らかでない限り業務災害となっています。従ってスタッフの方が新型コロナに感染したときは、ほとんど労災認定され労災保険から給付があります。労災認定されると治療費は無料になりますし、休業給付も80%補償されます。


 万が一、院長である夫が新型コロナにかかったときはどうなりますか。


 クリニックは医療法人ですか。


 そうです。夫が理事長をしています。


 そうなると健康保険は使えません。


 では、労災保険を使うことになりますか。


 理事長は労働者ではありませんから労災保険も基本的に使えません。労働基準監督署の労災担当者は、被災した人がどんな原因で業務災害になったかよりも、被災した人が労働者かどうかをチェックします。労働者でなければ労災給付する必要がないからです。


 朝から晩まで忙しく誰よりも働いているのに、それでも労働者でないのですか。


 そういうことになります。ただし、5人未満の法人は、業務災害でも例外的に健康保険から療養給付は受けられます。医師国保は業務災害には使えないことになっています。


 治療費は大変な額になりませんか。


 新型コロナ感染の事例では自治体により公的負担もいろいろ用意されていますから単純にはいきませんが、仮に労災保険も健康保険も使えないとかなりの額になります。コロナ感染ではありませんが、ある病院の理事長である医院長が病院の階段で転び足をくじいただけで業務災害となり、健康保険も労災保険も使えず全額自己負担で治療費が90万円かかりました。


 何か民間の保険に入った方がいいですか。


 私は労災保険の「特別加入」をお勧めしています。中小企業の場合、労働保険事務組合に加入すれば事業主も労災保険に特別に加入できます。労働保険事務組合とは、厚生労働大臣から認可された団体で、中小事業主に代わって労働保険料の申告・納付その他一定の範囲内で労働保険の事務を行う団体です。労働保険事務組合を持っている保険医協会もありますが、まだ多くの保険医協会が持っていません。事務的に大変なこともありますが、なるべく持っていただきたいと思います。


 保険料はどうなりますか。


 事業主の保険料はあらかじめ定めた賃金日額により計算します。賃金日額は3500円から2万5000円の範囲内で、自分で決めます。例えば、賃金日額を3500円と設定すると年間の賃金は3500円×365=127万7500円となります。医療機関の労災保険の料率は1000分の3ですから年間の保険料は1277500×3÷1000=3832.5円となります。


 賃金日額に応じた保険料を支払うだけで、労災の治療費がかからないのですね。


 そういうことです。

雇用問題Q&A

さらに過去の記事を表示