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新型コロナウイルスの感染が心配なスタッフへの対応

雇用問題Q&A 社会保険労務士 曽我 浩

 「月刊保団連」の好評連載記事から、著者および発行元の許可を得て転載して紹介します。
 なお、ここに掲載した記事は、それぞれ掲載時点の情報です。関係法令の改定や行政当局の新たな通知等によって、取扱いが変更されている事項が含まれている可能性があります。ご高覧にあたって、予めご了承ください。

新型コロナウイルスの感染が心配なスタッフへの対応
【2020年4月】


 スタッフ16人の診療所です。スタッフの家族が勤務している職場の従業員が新型コロナウイルスに感染してしまいました。スタッフは感染していないと思いますが、一応安全性が確認されるまで勤務は控えてもらおうと思っています。この場合給料はどうなるのでしょうか。


 労働安全衛生法では「病毒伝ぱのおそれのある伝染性の疾病にかかった者」等は就業させてはならないとしています。これに該当する疾病であれば企業の責任ではないので無給でもいいのですが、今回のコロナウイルスはこの疾病に該当しません。したがってスタッフを休業させた場合は、労働基準法により休業手当の支払い義務が発生します。


 有給休暇にしてもらってもいいのでしょうか。


 基本的には、有給休暇は労働者の権利ですから、事業主が勝手に決めるわけにはいきません。話し合ってスタッフと合意すれば問題ありません。


 医療機関ですから、万全の体制で治療にあたっています。しかし、今回のように「見えない感染」により、仮にスタッフ本人が治療中に患者から罹患し休業した場合はどうなりますか。


 その場合は労災保険から給付があります。しかし、経路がはっきりしないので証明が大変だと思います。通勤中に通勤が原因で罹患したのであれば、通勤災害になりますし、原因が不明の場合、健康保険で治療し、休業すれば健康保険から傷病手当金を受給することになります。


 結婚したばかりの女性職員で、1週間ほど海外に新婚旅行に行きたいという者がおります。この時期に飛行機で海外旅行に行くなどとんでもないことなので、私は延期するように言いました。
 しかし「一生に一度なのでどうしても行く」といって、私の言うことを聞きません。これまでも、わがままで自分勝手な行為が目立ちました。これを機会に辞めてもらうか、解雇にしたいと思いますがどうでしょうか。


 先生の主張にはかなり無理があります。第一、有給休暇は当人の好きな時に取ることができます。経営者側にできるのは「事業の正常な運営を妨げる」ときに行使できる時季変更権だけですが、よほどのことがないと認められません。
 しかも、有給休暇を取得した労働者に対する不利益取り扱いは労基法で禁止されています。もしも新婚旅行に行かせたくなかったら、本人とよく話し感染リスクなど説明し納得してもらうしかありません。


 今は普段と変わらなくても、今後のコロナウイルスの感染状況によっては医療機関の仕事は激変します。彼女への対応を考えてみます。


 長期的な展望に立って必要な人員体制を見極めることも大事なことなので、慎重な判断が求められます。今、国立感染症研究所を大リストラしてしまった政府のリスク対応が問われています。どのような対応がいいのか、正解を見つけるのは簡単ではありません。

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