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パワハラ・セクハラは労災認定されにくいが、民事事件になりやすい

雇用問題Q&A 社会保険労務士 曽我 浩

 「月刊保団連」の好評連載記事から、著者および発行元の許可を得て転載して紹介します。
 なお、ここに掲載した記事は、それぞれ掲載時点の情報です。関係法令の改定や行政当局の新たな通知等によって、取扱いが変更されている事項が含まれている可能性があります。ご高覧にあたって、予めご了承ください。

パワハラ・セクハラは労災認定されにくいが、民事事件になりやすい
【2017年6月】


 電通の過労自殺で本社ばかりか支社まで書類送検されました。自殺した女性のツイッターを見るとひどいいじめやパワハラがあったようですが、これが労災認定の決め手でしょうか。


いいえ。今回、労働基準監督署は労災認定する上でパワハラは一切考慮していません。あくまでも労働時間で判断しました。


 「休日返上で作った資料をボロクソに言われた」とか「男性上司から女子力がないと言われた」など、明らかにパワハラ・セクハラではないのですか。


 そう思われる方もいるかもしれませんが今回は問題にされていないと思います。第一、電通の社長(当時)自身が外部の法律事務所に調査を依頼し、その法律事務所から「違法なパワハラはなかった」と報告を受けたと言っています。電通の社長の記者会見はYouTubeで見ることができます。


 職員に相当ひどいことを言って仮にメンタルの病気になっても労災にはならないということですか。


 そういわれると困りますが、少なくとも私の経験ではこのようなケースで労災認定されたことはありません。大手の会社の支店で普通に働いていた女性社員が、厳しい支店長が来てしばらくしてうつ病になりました。会社が労災認定の手続きをしてくれないので保険医協会の精神科の先生の紹介で私の事務所へ相談にみえました。労災の申請は会社の印鑑がなくても申請できますので、私の方で労災申請をしましたが労災は「不認定」でした。労働基準監督署の担当者に、パワハラはどのようなときに認められるのか聞いたところ「死ぬほどの恐怖を覚えたとき」ということでした。したがって、現在では労基署にパワハラでメンタルの病気になっても、労災と認定されることはかなり難しいです。精神疾患のある人が自ら労災請求することも、支援者がそういう方から実情を詳しく聞いて申請することも多くの困難が伴います。


 そんなことなら、セクハラ・パワハラのし放題ということになりませんか。


 労災認定はなかなか大変だと言っているのであって、パワハラ・セクハラはおとがめなしというわけではありません。最近では民事の損害賠償事件が増えています。米国などと比べると桁違いに損害賠償額は低額ではありますが、多くは100万円を超え、請求額が500万円になった例もあります。それに労働局への相談は全国で年間100万件を超えています。その中で相談のトップがパワハラ・セクハラなどの「いじめ」です。


 私の診療所でもパワハラにあったとして退職した職員がいました。しかし、いじめたと言われる職員は全く身に覚えがないと言っており、真相は分かりません。


 若い人は打たれ弱いと言う声も聞きます。だからと言って職場に定着してくれないと困ります。パワハラ・セクハラ対応は労働者の健康問題としてだけでなく診療所存続の条件だという認識も大切です。人手不足の時代、職員が定着しない医療機関は存続できません。

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