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医療機関で目立つ「マタハラ」

雇用問題Q&A 社会保険労務士 曽我 浩

 「月刊保団連」の好評連載記事から、著者および発行元の許可を得て転載して紹介します。
 なお、ここに掲載した記事は、それぞれ掲載時点の情報です。関係法令の改定や行政当局の新たな通知等によって、取扱いが変更されている事項が含まれている可能性があります。ご高覧にあたって、予めご了承ください。

医療機関で目立つ「マタハラ」
【2015年12月】


 茨城県のクリニックが「マタハラ(マタニティーハラスメント)」で実名が公表されました。医療機関では「マタハラ」は多いのでしょうか。


 マタハラ(マタニティーハラスメント)は働く女性が、妊娠、出産を理由に解雇や雇止めをされたり、職場で精神的、肉体的な嫌がらせを受けたりすることをいいます。私も関与先医療機関の男性医師から「妊娠したら辞めてもらいたいんだよ」という話を聞いたことがあります。女性が多い職場である医療機関では表面化しないものの「マタハラ」はかなりあると思います。


 診療所の院長が仮にマタハラをしたとなると罰則は重いのでしょうか。


 茨城県事例では、看護助手で正規職員の20代女性が妊娠を報告したところ「明日から来なくていい。妊婦はいらない」と退職を迫ったというのです。院長は「均等法を守るつもりはない」と労働局の指導には応じなかったということです。しかし、男女雇用機会均等法では重くても氏名公表まです。


 しかし、医療機関の経営も大変ですし対応も悩ましいところです。


 院内保育園を設置するなどしてこの看護師不足の中、安定的に看護師を採用している医療機関もあります。しかしこれはまれなケースで、日本では妊娠・出産経験のある女性の6人に1人が「マタハラ」経験があるという調査もあります。


 現実的に、育休などを頻繁にとられると診療所の運営は大変です。どんな解決策がありますか。


 制度面と国民の意識の変革があると思います。


 今の日本には制度はないのですか。


 いいえ、育児休業制度や看護休暇制度、社会保険料免除制度各種助成金制度などがあります。私の関与先で、いつも数人の方が育児休業を取得している医療機関があります。これらの制度の充実と普及が必要だと思います。


 意識面ですが、私も職員から妊娠を伝えられると素直に喜べないところがあります。


 日本は育児が女性に押し付けられているところがあります。進歩的と言われている男性でも男女平等意識に欠けている人もいます。世界経済フォーラムが発表した日本の「男女平等指数」は 142ヵ国中104位(2014年)でした。1人当たり国民総生産が世界有数なのに残念な結果になっています。米国務省の「世界の勇気ある女性賞」に今年はマタハラの被害支援に取り組む日本人女性が選ばれましたが、世界から見ればそれだけ深刻な問題だということですから、複雑な気持ちです。


 なかなか根が深いですね。


 私は、過労死するほどの長時間労働の削減が重要だと思います。妻子を犠牲にして働くことが美徳とされるような働き方をなくすことです。労働時間短縮には労働組合も政治家も関心が今一つと思います。労基法もこの点では不十分です。スペインでは残業に対する罰金が600万円ということを聞いたことがあります。

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