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不明金が300万円。経理担当者の横領が疑われる。懲戒解雇はあるのか。

雇用問題Q&A 社会保険労務士 曽我 浩

 「月刊保団連」の好評連載記事から、著者および発行元の許可を得て転載して紹介します。
 なお、ここに掲載した記事は、それぞれ掲載時点の情報です。関係法令の改定や行政当局の新たな通知等によって、取扱いが変更されている事項が含まれている可能性があります。ご高覧にあたって、予めご了承ください。

不明金が300万円。経理担当者の横領が疑われる。懲戒解雇はあるのか。
【2013年10月】


 歯科医療法人を経営しています。従業員は50人程です。この度300万円の不明金が発生しました。経理担当者の横領が疑われますが、当人は「横領はしていませんが、不明金を出した責任を負い退職します」と退職届を持ってきました。退職届を受理すべきでしょうか。懲戒解雇にすることになるのでしょうか。

A
 経理担当者はその人だけですか。


 はい、信用していたので、この8年間はその人に任せていました。この度、税理士からの指摘で不明金が明らかになりました。

A
 従業員50人程度の規模になると、担当1人だけに任せる仕事は極めて危険です。信ぴょう性は定かではありませんが、10社に1社で横領があると言われています。実際インターネットで「医療機関の横領」として検索すると、かなりの件数がヒットします。
 しかし、本人が横領を否認している以上、不明金が出たというだけで懲戒解雇は難しいでしょう。


 経理担当者は1人ですから、横領の疑いは強いと思います。

A
 本人が横領を否認している以上、それを証明するのは大変です。はっきりとした証拠がないと懲戒解雇は難しいです。


 懲戒解雇の場合、何か不都合がありますか。

A
 懲戒解雇も解雇ですから、即解雇ですと平均賃金の1カ月分の「解雇予告手当」を支払わなければなりません。
 支払いたくなければ解雇する前に、労働基準監督署から「解雇予告手当除外認定」を受けなければなりません。


 「解雇予告手当除外認定」の手続きはどうのようにするのですか。

A
 所定の用紙「解雇予告手当除外認定申請書」を労働基準監督署に提出し、認定を受けます。しかし多くの場合、不明金が出ただけでは「不認定」となります。先日も筆者のかかわっている会社で経理部長が600万円の不明金を出しましたが、解雇予告手当除外認定は「不認定」となりました。帳簿がきちんとしていて、誰の目にも横領とわかるようでなければ認定は難しいのです。逆に横領額が1万5000円でしたが、本人が「ばかなことをしました」と認めたため、解雇予告手当除外認定申請が認定されました。


 では、平均賃金の1カ月分の解雇予告手当を支払って、懲戒解雇する方法はどうですか。

A
 それはできます。雇用者の多くがそのようにしているようです。ところであなたの歯科医療法人に退職金制度はありますか。


 高い給料を支払っているので、退職金制度はありません。

A
 退職金制度がないのであれば、懲戒解雇にこだわる必要はないと思います。懲戒解雇が問題になるのは、退職金が支給されなくなるからです。多くの退職金規程では「懲戒解雇」の場合は退職金を支給しないとなっています。今回の解雇をめぐる問題で大切なことは退職金問題はありませんし、このような横領の可能性のある人を排除することですから、私は退職届を受理すればそれで良いと思います。
 ご立腹かもしれませんが、ある事業所では懲戒解雇したところ、逆に会社が訴えられ120万円の慰謝料を支払うことになりました。懲戒解雇は慎重にすべきです。

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