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波長が合わない職員を解雇できるか

雇用問題Q&A 社会保険労務士 曽我 浩

 「月刊保団連」の好評連載記事から、著者および発行元の許可を得て転載して紹介します。
 なお、ここに掲載した記事は、それぞれ掲載時点の情報です。関係法令の改定や行政当局の新たな通知等によって、取扱いが変更されている事項が含まれている可能性があります。ご高覧にあたって、予めご了承ください。

波長が合わない職員を解雇できるか
【2010年4月】


 診療所を経営していますが介護部門も含めると従業員が30人近くなります。総務部門の責任者になってもらおうと思って経験者を知人の紹介で雇用しました。ところがどうも私と波長が合いそうもありません。辞めてもらおうと思っていますが何か問題はありますか。

A
 まず、よく話し合い極力退職届を提出してもらうよう努力することです。それがだめな時は、労働基準法第20条では「使用者は、労働者を解雇しようとする場合においては、少なくとも30日前にその予告をしなければならない。30日前に予告をしない使用者は、30日分の以上の平均賃金を支払わなければならない。ただし、天災事変その他やむをえない事由のため事業の継続が不可能となった場合又は労働者の責めに帰すべき事由に基づいて解雇する場合はこの限りでない。」となっています。


 私と「波長」が合わないのですから「労働者の責めに帰すべき事由」になりませんか。

A
 「労働者の責めに帰すべき事由」とは「横領」などの社会的にも認められる犯罪行為をしたような場合であって、先生と「波長が合わない」などというのは普通解雇の理由にもなりません。


 どんなときでも「解雇予告」か「解雇予告手当」が必要なのでしょうか。

A
 労働基準法第21条で「日々雇入れる者」「2カ月以内の期間を定めて試用される者」「試用期間中(14日以内)の者」には解雇予告手当を支払わなくていいことになっています。契約はどのようなものでしたか。


 とりあえず2カ月の契約を結びました。まだ10日目ですから、試用期間中ということで支払わなくてもいいですね。

A
 労働契約に試用期間を明確に定めましたか。


 いいえ、2カ月の契約なので試用期間の定めはしていません。

A
 そうなると試用期間とはいえません。


 でも「2カ月以内の期限を定めて雇用した者」になりますから、いずれにしろ「解雇予告手当」を支払わなくていいということになりませんか。

A
 確かに労働基準法上はそうなります。しかし、期間の途中で解雇するときは民法上原則としてやむを得ない事由があるときとされ、使用者が破産したときなどです。


 私のところの就業規則には「期間中といえども労働者はいつでも退職でき、医院も就業規則に基づき解雇できる」とする条項が入っていますよ。

A
 しかし、解雇の事由が合理的でない可能性があります。就業規則の解雇事由からあまりにもかけ離れた理由ですと、労働基準法に触れなくても労働契約法に言う「解雇権の濫用」になります。


 そんなことを言ったら就業規則に解雇の事由を大量に書かなければなりませんし、予想もつかないような事件が起きるかもしれません。

A
 そこで、経営者側のある著名な弁護士は解雇の事由に「当社の社員として適格性を欠く者」という一般的な条項を入れておくように提案しています。


 私が気に入らない職員を解雇してはいけないのですか。

A
 そうですね。解雇は労働者にとって生活を奪われることですから、そんなに簡単なことではありません。私は解雇事由がある場合でも話し合って退職届を提出してもらうよう勧めています。

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