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転勤に応じない職員の対応

雇用問題Q&A 社会保険労務士 曽我 浩

 「月刊保団連」の好評連載記事から、著者および発行元の許可を得て転載して紹介します。
 なお、ここに掲載した記事は、それぞれ掲載時点の情報です。関係法令の改定や行政当局の新たな通知等によって、取扱いが変更されている事項が含まれている可能性があります。ご高覧にあたって、予めご了承ください。

転勤に応じない職員の対応
【2007年2月】


 歯科の診療所を県内に5カ所経営しています。女子職員を転勤させようとしたところ、「通勤時間が増えるからいやだ」と言って、転勤に応じません。転勤を強く言うことはできないのでしょうか。


 先生はまたどうして転勤させたいと思ったのですか。


 そこの診療所は若い女子職員が居つきません。どうもその職員が「お局様」になっていて、若い女子職員に厳しく当たっているようなのです。若い職員には定着してもらたいので、その「お局様」を私の目の届くところに転勤させ、職場の空気を変えようと思ったからです。


 その「お局様」はやめてもらうわけにはいかないのですね。


 ともかく仕事には熱心で、献身性もありますし、辞めさせることはちょっとできません。


 今の日本では、解雇はなかなか認められませんが、配転はかなり認められています。


 そうすると、通勤時間が30分増える程度では不当な転勤にはなりませんか。


 まったくなりません。極端な場合、共働き夫婦で別居を余儀なくされた配転も裁判所は有効だとすることもあります。よほどのことがない限り使用者の権利の濫用にはなりません。


 どんなとき権利の濫用になりますか。


 業務上の必要性もなく転勤命令を出すとか、不当な動機目的のもとに転勤命令を出すとか、労働者に通常甘受すべき程度を超える著しい不利益がある場合などです。


 今回の転勤命令は、トラブルがない限り行わなかったものですが、当人は「私よりも適任者がいるから行く必要がない。はかに適任者がいるのになぜ私が行かなければいけないのですか」と言っています。ほかに適任者がいる場合は難しいのでしょうか。


 当人は業務上の必要もないのに配転するのかと主張しているのでしょうが、最高裁は「業務上の必要性が存しない場合または業務上の必要性が存する場合であっても、当該転勤命令が他の不当な動機・目的をもってなされたものであるとき若しくは労働者に対し通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものであるときなど、特段の事情の存する場合でない限りは、当該配転は権利の濫用にならない」といっており、かなり広く認められています。つまり、ほかに適任者がいても労働力の適正配置、業務運営の円滑化など、企業の合理的運営に寄与する者であれば人選に合理性があるといわれています。


 労働者にとってはいささか酷に見えますが、なぜそのように広く配転を認めるのでしょうか。


 やはり日本は長期雇用システムが出来上がっています。したがって解雇は簡単にできません。人事の滞留は職場を不活性にします。解雇が不自由な代わりに転勤を頻繁にやることにより職場を活性化させる道をとったのです。したがって、夫婦別居を余儀なくさせられた転勤も有効となっています。


 有効でなくなる配転とはどんなものですか。


 長女がうつ病の疑いがあり次女が後遺症で精神発達遅延、両親は体調不良とか、本人がメニエール病なのに京都から大阪に転勤命令で通勤時間が1時間40分以上になったなど、かなりひどい状態のものだけです。


 そうすると、職員に配慮しながらする私の配転命令など問題になりませんね。


 そうです。日本は配転はかなり認められています。それに、裁判官はかなりひどい配転命令に耐えて仕事をしていますから、かなりの配転命令も認める傾向にあります。これは余談ですが、「単身赴任」は外国語に訳せなかったそうです。

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