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明確な基準のないハラスメントをどう防止すればいいのか【2021年10月】

雇用問題Q&A 社会保険労務士 曽我 浩

 「月刊保団連」の好評連載記事から、著者および発行元の許可を得て転載して紹介します。
 なお、ここに掲載した記事は、それぞれ掲載時点の情報です。関係法令の改定や行政当局の新たな通知等によって、取扱いが変更されている事項が含まれている可能性があります。ご高覧にあたって、予めご了承ください。

明確な基準のないハラスメントをどう防止すればいいのか【2021年10月】


 職員10人ほどのクリニックです。女性スタッフの夫から妻がパワハラを受けているとのメールが届きました。なんでもそのスタッフがみんなからあまり話しかけられなくなったということで、これはパワハラの6類型のうちの「人間関係からの切り離し」に該当するというのです。


 パワハラの訴えがあった時は、通常はいきなり加害者と言われている人を注意するのではなく、被害者から実情をよく聞く必要があります。


 ところが、このスタッフの夫は「相談したことは黙っていてくれ」と言ってきました。


 それでは対応のしようがないですね。様子を見ながら職場内のコミュニケーションを良くするように努力していく中で解決することがありますので、このような時は、訴えがあったなどについては公表せず、しばらく様子を見る必要があります。


 それから、男性スタッフで最近双子が生まれた者がいます。私から見ても有頂天になっており、携帯で双子の動画をみんなに見せたり、写真を机の上に置いたりしています。
 スタッフの中には独身の中年女性もいます。その男性スタッフには、動画を見せたり写真を置いたりするのはやめるように言おうかと思っています。これは何かのハラスメントになるのでしょうか。


 そうした行為をすることにより同僚が不快に感じれば、ハラスメントになる可能性があります。
 ただ、不快に感じるかどうかははっきりした基準はありません。平均的な労働者の感じ方が基準になります。従って、はっきりハラスメントになるとは言えませんが、周囲に配慮するようにその男性労働者に忠告しておいた方がいいでしょう。


 それと、ある患者が「順番を早くしろ」と言ってきたので断ったところ、スタッフの胸を強く打ちあばら骨にひびが入りました。このような患者からの暴力もハラスメントですか。


 これはカスタマーハラスメントに当たります。医院長にはスタッフを守る義務があるので、トップの明確なメッセージを発する必要があります。
 特に医療機関で暴力が急増しているようで、医師会でもポスターを作成して配布しているところもあります。関西医科大学の三木明子教授はネット上で無料ダウンロードできるポスターを提供しています。三木教授は、ポスターは1ヵ所だけでなく、なるべく目立つように張ることを提案しています。
 2020年6月から大企業で職場におけるハラスメント対策が義務化されました(中小企業は2022年4月から)。ハラスメント対策では、トップの明確なメッセージを院内外に周知するとともに、職員間のハラスメントをなくすために就業規則の規定を見直す必要があります。ハラスメント行為をした者を懲戒するためには、そもそも規定がなければ取り上げることもできません。しかも周知していなければ、どんな懲戒処分も無効になります。
 パワハラ、セクハラ、マタハラなど様々ありますが、ともかく、どのようなハラスメントもスタッフのモチベーションを大きく下げます。早めの対策が大切です。

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