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スタッフが突然来なくなり「解雇理由証明書」を請求してきた【2021年7月】

雇用問題Q&A 社会保険労務士 曽我 浩

 「月刊保団連」の好評連載記事から、著者および発行元の許可を得て転載して紹介します。
 なお、ここに掲載した記事は、それぞれ掲載時点の情報です。関係法令の改定や行政当局の新たな通知等によって、取扱いが変更されている事項が含まれている可能性があります。ご高覧にあたって、予めご了承ください。

スタッフが突然来なくなり「解雇理由証明書」を請求してきた【2021年7月】


 あるスタッフが呼んでも返事をせず、ふてくされた態度で指示にも従わないので「仕事をする気がないなら帰っていいよ」と言ったところ黙って帰ってしまいました。その後メールで出社するよう連絡しましたが全く返事がありません。しばらくして「解雇理由証明書」を郵送するように要求してきました。こんなもの出さなくてはいけないのでしょうか。


 労働基準法では、退職する従業員から「解雇理由証明書」や「退職証明書」の請求があった場合、遅滞なく交付しなければならないことになっています。裁判で争点になるのは、それが解雇かどうかということです。労働者は解雇されたと主張し、使用者側は自己都合退職だと主張し争いになることが多いのです。


 このスタッフは普段から同僚に対して悪態をついたり、私の指示を無視するので、辞めてくれるなら出してもいいかと思っています。


 解雇でもないのに解雇とすることは極めて危険です。労働者が、法律事務所や1人でも加入できる労働組合(ユニオン)等に相談すれば、団体交渉を申し込まれる可能性があり、裁判に発展することもあり得ます。今回は裁判になるかどうか分かりませんが、裁判で解雇が有効になる事例はまれです。解雇が無効になれば、裁判中の賃金をさかのぼって支払わなければなりません。裁判にならなくても、多額の解決金を請求される可能性があります。
 それでも辞めてもらいたい場合は「退職勧奨」にして「退職合意書」を取ることをお勧めします。解雇というのは労働者が「辞めたくない」と言っているのに一方的に退職させることです。退職勧奨は「辞めても辞めなくてもどちらでもいいけど、どうもうちには合わないので、よそで能力を発揮したほうがいいのでは」と言って退職を勧めることです。退職届を出すと「解雇予告手当」を受け取れないし、雇用保険についても失業給付をすぐには受給できず、しかも受給期間が短いといった理由から解雇にこだわる労働者がいます。この場合も離職票を事業主都合とすれば失業給付の効果は、解雇と全く同じです。予告手当相当分を解決金として支払う場合もあります。


 どうしても辞めさせたい場合、解雇できますか。


 中小企業の場合、十分に準備するだけの余裕がなく、裁判で解雇が認められることは難しいと思います。労働契約法では「解雇は客観的合理的理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合はその権利を乱用したものとして無効とする」(第16条)となっています。客観的合理的な理由の中には「能力、技術の、知識の著しい欠如」とか労務の「著しい不適格」とか「著しい」などという表現が多く、裁判官の主観に頼る部分もあるので予測が困難です。「社会通念上相当である」とは十分な指導教育、適正な注意指示命令がされていたかどうかということです。解雇が無効とされるのは「合理性」の欠如ではなく「相当性」の欠如です。注意したかどうか、書面による証拠があるかどうかが重要です。弁護士も「100の証言より1つのリアルなペーパー」と言っています。私は「業務等改善指導書」書面の交付を勧めます。この書式は、当事務所のホームページからダウンロードできます(https://www.sogaoffice.jp/format/)。

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