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パート・アルバイトには賞与・退職金を支払わなくていいのか【2021年6月】

雇用問題Q&A 社会保険労務士 曽我 浩

 「月刊保団連」の好評連載記事から、著者および発行元の許可を得て転載して紹介します。
 なお、ここに掲載した記事は、それぞれ掲載時点の情報です。関係法令の改定や行政当局の新たな通知等によって、取扱いが変更されている事項が含まれている可能性があります。ご高覧にあたって、予めご了承ください。

パート・アルバイトには賞与・退職金を支払わなくていいのか【2021年6月】


 2020年10月、非正規労働者に賞与や退職金が支払われなかったことの是非が争われた2件の訴訟で、原告側が敗訴しました。パートやアルバイトには賞与を支払わなくてもいいのでしょうか。当院では、気持ち程度でしたが、パートのスタッフに支払っていました。もし、その必要がないのなら、コロナで経営的にも厳しくなってきたので、今後賞与はやめようと思っています。


 正確には、最高裁は非正規労働者であるという理由で支払わないのは「不合理でない」と言っています。つまりブラックではないがグレーであり、違法ではないということです。今まで支払っていたものを支払わないというのであれば、それはよく考えた方がいいです。就業規則・賃金規定では賞与はどうなっていますか。


 決めていません。ただ、気持ち程度支払っていただけです。


 賞与とは①労務の対価の後払い②功労報償③生活費の補助④労働者の意欲の向上など多様な趣旨を含むものとされています。従って、いつも支給している賞与をやめると、スタッフのモチベーションが下がる恐れがあります。賞与は支給しても喜びは一時かもしれませんが、支給しないことによる不満は長期になります。賃金を値上げしても「ぜいたくは翌日から日常となる」の例え通り「モチベーション向上効果」としては一時的です。


 従業員のモチベーションを上げるには絶えず賃上げをしなくてはいけないのですか。


 いいえ、仕事の動機付けのためには賃上げではなく、「達成すること」や「承認されること」「責任の拡大」が動機付け要因になります。むしろ、賃金は「衛生要因」と言われ、不満足を起こす要因とされています。仕事への「満足を引き起こす要因」と「不満足を起こす要因」はそれぞれ別々という考え方です(動機付け要因、衛生要因論)。これは多くの経営者の実感ではないでしょうか。


 なぜ、最高裁は賞与を支払わなくても不合理でないと言ったのですか。


 賞与は「正職員としての職務を遂行し得る人材の確保やその定着を図る」目的(有為人材確保論)があります。つまり長期雇用を前提とし、将来にわたって活躍する「有為な人材」を確保するためだから正社員には賞与を支払うが、短期雇用を前提としているアルバイトなど非正規労働者には賞与はいらないというわけです。これは一見もっとものように見えます。しかし、これでは非正規労働者のモチベーション向上は期待できません。賃金は評価の基準でもあり、「お金であってお金ではない」のです。私は最高裁の判決にかかわらず、正規社員に支給しているならば非正規の労働者にも金額にかかわらず支給すべきと思います。非正規であっても優秀な人はたくさんいます。賞与を支払っても、モチベーションが上がれば多くの利益をもたらすことも考えられます。それに政府のガイドラインでも正社員との相違があれば相違に応じて賞与を支払うことを提案しています。


 退職金はどのような意味があるのですか。


 やはり同じ「有為人材確保論」です。退職金は給与の後払い、従業員の足止めという意味があります。つまり長期雇用が前提です。しかし非正規労働者でも長期雇用が増えてきましたから、見直しの時期になっていると思います。

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