奈良県保険医協会

メニュー

暴言を吐く職員を懲戒解雇するには

雇用問題Q&A 社会保険労務士 曽我 浩

 「月刊保団連」の好評連載記事から、著者および発行元の許可を得て転載して紹介します。
 なお、ここに掲載した記事は、それぞれ掲載時点の情報です。関係法令の改定や行政当局の新たな通知等によって、取扱いが変更されている事項が含まれている可能性があります。ご高覧にあたって、予めご了承ください。

暴言を吐く職員を懲戒解雇するには
【2019年3月】


 少し注意するだけで暴言を吐く職員がいます。これ以上雇用しておくと職場全体がおかしくなってしまいます。つい最近、待合室の患者に聞こえるほどの大声を出して、女性職員は怖がって休んでしまいました。当人にきつく注意したところ「詫び伏」を書いてきました。これ以上は我慢できないので懲戒解雇にしたいと思います。


 その前に、懲戒解雇にあたっての根拠はありますか。懲戒解雇であれば、就業規則に「暴言を吐いた時は懲戒解雇にする」などの規定が必要です。
 裁判では、「一般的な解雇」とは違って「懲戒解雇」は例外的な取り扱いとなることがありますが、基本的にはその事由が就業規則に記載されていないと認められません。


 就業規則には「職場で暴行、脅迫、傷害、暴言またはこれに類する行為をしたとき」とあります。「詫び状」を書いたくらいのことでは、恐怖で休んでしまった職員も納得しないのではないでしょうか。それに、当院においては暴言を許さないという私の姿勢を示そうと思うのです。


 そうすると、就業規則上の懲戒解雇事由に該当しますから、たとえ裁判になっても認められる可能性はあります。
 しかし、実際の裁判になると「比較的軽微な非行」と判断されることもありますから、日頃のそういった職員に対する指導をチェックできるようにしておく必要があります。


 例えばどういうことですか。


 たびたび暴言を吐いたということですが、①そういった暴言がどのくらい繰り返されたのか、②上司は注意したのか、③単に口頭で注意しただけなのか、④書面で注意したのであれば、その書面は保存されているか――などになります。


 話せば分かると思い、書面で注意していません。


 そうすると裁判所に認めさせるのが難しくなります。注意していないのと同じということになりかねません。


 しかし、この職員は書面で注意しても受け取らないと思います。その場で破り捨ててしまう可能性もあります。


 それでも、口頭だけで済ませてしまうと、第三者が客観的に判断することはできません。


 書面を受け取らなかったり、破いてしまったらどうするのですか。


 大切なことは情報を残すということです。控えを取っておいた上で、書面を読み上げて本人に手渡し、その状況を記録しておけばいいのです。こうした基本的な手続きをしないまま懲戒解雇処分をした医療機関がありましたが、逆に高額の慰謝料を支払うことになってしまいました。


 懲戒解雇にしない方がいいということですか


 「そのような危険な人は退職届を提出させ、職場から去ってもらえば良い」という考え方もありますが、日常の勤務管理のあり方から諭旨解雇となったケースですら「過酷すぎる」とされた裁判例もあります。これが絶対という正解はありませんが、懲戒解雇は雇用される者にとっては「極刑」のようなものですから慎重であるべきだと思います。

雇用問題Q&A

さらに過去の記事を表示