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所定労働時間内なのに従業員が残業代を請求してきた

雇用問題Q&A 社会保険労務士 曽我 浩

 「月刊保団連」の好評連載記事から、著者および発行元の許可を得て転載して紹介します。
 なお、ここに掲載した記事は、それぞれ掲載時点の情報です。関係法令の改定や行政当局の新たな通知等によって、取扱いが変更されている事項が含まれている可能性があります。ご高覧にあたって、予めご了承ください。

所定労働時間内なのに従業員が残業代を請求してきた
【2018年12月】


 歯科衛生士1人と事務員2人の従業員3人の歯科診療所です。これまで従業員からの苦情などなかったのですが、どこかで聞いてきたらしく、8時間を超える労働時間には残業代を支払うべきではないかと言ってきました。従業員10人未満の事業場は1週44時間までは法定上認められると思っていました。1日10時間の日が1週4日、4時間の日が1日で、1週44時間以内で働いてもらっています。この範囲内なら残業代は発生しないと説明したのですが、従業員は納得しません。


 確かに業種が保健衛生などの10人未満の事業場は「特例措置対象事業場」といって、1週44時間まで労働基準法上の時間外労働になりません。先生のところは「1か月単位の変形労働時間制」の就業規則はありますか。


 私のところは従業員が10人未満ですから就業規則はありません。


 では、1ヵ月を通じて1週当たり44時間以内にすることを定めた「1か月単位の変形労働時間制の協定」を労働基準監督署に届けていますか。


 そんなことは初めて聞きました。


 そうなると8時間を超えた部分は労基法上の時間外労働になってしまいます。先生の事業場は「変形労働時間制」を採用しているつもりかもしれませんが、就業規則を作成するか労使協定を結び、労基署に届けるなどしないと、時間外労働に関する賃金を支払わなければなりません。


 採用のとき1週44時間ですと説明したはずですが。


 その時に、そのようなことを相手が納得したとしても、その主張は通りません。ただ、変形労働時間制を採用すれば、特定の日に8時間を超えることは可能です。変形労働時間制を採用するためには、就業規則に定めるか協定を結び労基署に届ける必要があります。労使協定をいちいち労基署に届けることは大変ですから、早めに1ヵ月単位の変形労働時間制を採用した就業規則を作成し、従業員に周知した方がいいと思います。また、従業員10人未満の事業場は就業規則を労働基準監督署へ届け出る必要はありませんが、今回のような残業トラブルなどを避けるためにも就業規則を作成することをお勧めします。


 就業規則があっても労使トラブルが無くならないところもありますね。


 トラブルを完全に無くすことはできません。しかし、トラブル解決の基準ができます。ただ、私の経験では、こじれる労使トラブルは根底に日常の労働者の「恨み、つらみ」があります。大切なことはこのような恨みを抱かせないようにすることです。
ある会社で成功した方法は「1to1」でした。150人くらいの会社で、社長が年1回計画的に全社員と10分程度の個別面談を行い、従業員から将来の夢などを聞くのです。そうした中で従業員の真の要求をつかむというのです。先生は従業員と個別面談をしたことがありますか。


 会議でみんなの話を聞くことがあっても個別面談はしたことがないですね。


 会議だけでは不十分の場合があります。コミュニケーションを良くするためにも「1to1」を試みてください。みんなの前では言えない本音を聞けるかもしれません。先生の診療所の規模であれば毎月でもできると思います。

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