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定年後賃金を下げることは問題ないか

雇用問題Q&A 社会保険労務士 曽我 浩

 「月刊保団連」の好評連載記事から、著者および発行元の許可を得て転載して紹介します。
 なお、ここに掲載した記事は、それぞれ掲載時点の情報です。関係法令の改定や行政当局の新たな通知等によって、取扱いが変更されている事項が含まれている可能性があります。ご高覧にあたって、予めご了承ください。

定年後賃金を下げることは問題ないか
【2018年8月】


 私の診療所は60歳定年と定めています。60歳になる職員がいますが、私から見れば当人はまだ若々しく元気なので働く能力はあると思います。引き続き働いてもらおうと思いますが、経営的にも大変なので、少し給料を下げてもらいたいと思います。同一労働同一賃金上問題はあるでしょうか。


 高年齢者雇用安定法で事業主は労働者を65歳まで雇用することが義務付けられていますが、労働条件については定められたものはありません。従って給料を下げることも認められています。仕事内容はどうなりますか。


 これまでと当面は全く同じです。


 雇用形態はどうなりますか。例えば1年契約で働いてもらい、1年ごとに労働条件を見直すような働き方ですか。


 彼女が65歳まで同じように働けるかどうか心配なので、1年契約で様子を見たいと思います。


 全く同じ仕事でも、定年後の継続雇用において賃金を引き下げること自体は不合理とは言えないという最高裁の判決がありましたから、60歳から下げても差しつかえありません。


 そうですか。経営者にとってはありがたい判決ですが、働く人にとっては全く同じ仕事をして賃金を下げるというのは不満も多いでしょうね。


 私も全く同じ仕事をしているのに60歳になったからと言って賃金を下げることは一般の理解が得られないのではと思っていましたが、意外と世間の反応は肯定的でした。ただ、この裁判で示した手当に関する判断はこれから賃金制度を考える上で重要です。非正規労働者と正規労働者の差別的取り扱いには厳しい印象を受けました。ところで60歳以上の方を引き続き雇用する場合、雇用保険から支給される高年齢雇用継続給付は検討しましたか。


 どういった制度ですか。


 原則として60歳時点の賃金と比較して、60歳以後の賃金(みなし賃金を含む)が60歳時点の75%未満となっている方で、①60歳以上65歳未満の雇用保険の一般被保険者である、②被保険者であった期間が5年以上ある――などの条件の方が受給できます。最高額で下がった給料の15%支給されます。


 給料を25%も下げることは考えていません。


 この制度は月々の給料を下げると支給されます。従って月々の給料を思い切って60%くらいに下げ年3回以内の賞与をかなり支払いそんなに年収を下げない方法で継続雇用している事業所もあります。


 問題はないのですか。


 以前ハローワークの所長に聞いたことがあります。その時は高齢者にはなかなか職場がなかったこともあり、給料体系を変えて引き続き高齢者を雇用することは何ら問題ないということでした。なお、同一労働同一賃金に関し注意しなければならない判決もありました。手当に関し非正規と正規社員の差をつけることについては、住宅手当に差をつけることは「不合理とは言えない」とされましたが、それ以外の手当は不合理とされ「家族手当、賞与、定期昇給、退職金」についての判断は示されませんでした。

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