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「同一労働同一賃金」は本当に実現するのか

雇用問題Q&A 社会保険労務士 曽我 浩

 「月刊保団連」の好評連載記事から、著者および発行元の許可を得て転載して紹介します。
 なお、ここに掲載した記事は、それぞれ掲載時点の情報です。関係法令の改定や行政当局の新たな通知等によって、取扱いが変更されている事項が含まれている可能性があります。ご高覧にあたって、予めご了承ください。

「同一労働同一賃金」は本当に実現するのか
【2016年11月】


 「同一労働同一賃金」という言葉をよく聞くようになりました。私の診療所にも正社員とパート職員がいます。仮に実現すると、パート職員の賃金見直しが必要になりますか。


 通常、正社員は週40時間制のもとでは1年52週とすると約2000時間働きます。正社員と同じ時間働いても、時給950円では年間収入190万円にしかなりません。日本の景気同復のためにも、非正規労働者の賃金を値上げすることは必要なことだと思います。ただ、そのための施策として安倍内閣が打ち出す「同一労働同一賃金」の実現は、簡単にはいかないと思います。


 実現が簡単でないとは、どういうことですか。


 日本ではそもそも「仕事」に値段がついていないからです。欧米では、一般的には会社の枠を超えた労働組合が経営者団体と協定して、どの会社で働いても同じ仕事であれば賃金が同じです。しかし日本では同じ仕事でも会社によって全く違います。日本は長期間雇用システムのもとで「人」に値段がついています。


 古い人の方が賃金が高くなっているのも、そのためですか。


 「賃金とは何か」と言いますと、労働基準法では「労働の対償として使用者が労働者に支払う」ものとなっています。しかし、日本の賃金の決め方からすると、この定義はあてはまらなくなります。賃金とはその人の労働能力の値段であり、その人が能力を身に付けるためにかかった値段です。仮に正看護師の資格者と准看護師の資格者がたまたま同じ仕事をしていても、賃金は違って当然なのです。


 そうすると、同じ正看護師の資格を持っているパート職員と正規職員で時間単価賃金が違うのは問題ですか。


 そう単純にはいきません。正規職員は必要があれば残業もしなければならないなど責任があると思います。勤務表などでもパート職員の希望を優先させると思います。


 それでは時間単価などはある程度違ってもいいということですね。


 そうです。しかし、正規職員には住宅手当や通勤手当、退職金、定期昇給があって、パート職員にはないとなると、納得性が必要になります。裁判例もあります。今のところこのような格差は認められていますが、パート用の就業規則がきちんとあることが条件になっています。たとえパート職員が1人しかいなくても、パート用就業規則を作っておく必要があります。


 パート職員には「労働契約書」を渡して労働条件を明確にしています。それでもパート用就業規則は必要ですか。


 労働契約書で労働条件を通知しても、パート用就業規則がなければ正規職員用の就業規則が適用されてしまいます。


 産休明けはしばらくパートで働きたいという職員もいます。労働条件を決める時に注意が必要ですね。


 そうです。産休明けの職員には、正規職員で働けない場合でも、パート職員でそれなりの処遇で引き続き働いていただくべきです。採用コスト・教育コストを考えれぱ産休で辞めてしまうのはもったいないことです。

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