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有給休暇は与えなければならないか

雇用問題Q&A 社会保険労務士 曽我 浩

 「月刊保団連」の好評連載記事から、著者および発行元の許可を得て転載して紹介します。
 なお、ここに掲載した記事は、それぞれ掲載時点の情報です。関係法令の改定や行政当局の新たな通知等によって、取扱いが変更されている事項が含まれている可能性があります。ご高覧にあたって、予めご了承ください。

有給休暇は与えなければならないか
【2015年3月】


 スタッフ3人の診療所です。当院のように小さな診療所でも有給休暇を与えなければいけないのでしょうか。


 労働基準法で、雇い入れの日から起算して6力月間継続勤務し全労働日の8割以上出勤した労働者には10日の有給休暇を与えなければならないことになっています。以後、年数が増えるごとに有給休暇も増え、6年半で20日の有給休暇を与えなければなりません。最近、中小医療機関で有給休暇の不満をよく聞きます。


 これまで有給休暇についての不満など全くないと思っていましたが、最近採用した職員が「有給休暇がないのはおかしい」と言い出し、他の職員も有給休暇を要求してきました。


 やはり、人を雇用する側と雇用される側とでは意識が違います。有給休暇に関する不満は賃金と並んで大きいとされています。労働基準監督署も事業所の調査の時、年次有給休暇の管理に関する書類のチェックをします。特に最近、メンタルヘルス対策が重視されるようになってから有給休暇が見直されるようになったと思います。


 当院は完全週休2日制で、夏季休暇、年末年始の休みのほか、私が学会に行くときは休みになります。私としては十分休みを与えていると思っていますし、診療日に休まれると困ります。


 労働基準監督署は「有給休暇は『使用者の承認により与える』というものではなく、従業員が取得したい日を前日までに指定すれば、無条件で与えられるものです。ただし、有給休暇の取得を認めることにより事業の正常な運営を妨げることになる場合は、別の日に取得するよう求めることができます(これを「時季変更権」と言います)」としています。この時季変更権も単に忙しいという理由では認められません。


 そんなことを言ったら小規模診療所はやっていけないのではないでしょうか。


 労使協定をすれば有給休暇のうち5日を超える日数について、労使であらかじめ取得日を定めることができます(これを「計画付与」と言います)。たとえば、祝日、年末年始、夏休みなどを計画付与の対象にし、有給休暇を消化したということにもできます。


 これまで休日だった日を有給休暇にできるということですか。


 「休日」はもともと労働義務のない日で、「休暇」は労働義務のある日に労働を免除する日です。したがって休日に有給休暇を取ることはできません。従業員とよく話し合い、休日に関し同意を得る必要があります。ただ、これからは十分な休暇を与えるという立場で経営していかなければ有能な人材の定着が難しくなると思います。日本の労働者の有給休暇の取得率は50%に達しておらず、これは先進国の中では異常です。そもそも西欧先進国では取得率という考えがなく、 100%が当たり前です。日本で有給休暇の完全取得が実現すると15兆円の経済効果と188万人の雇用創出があると言われています。経済産業省、国土交通省も「休暇改革は経済活性化策の『コロンプスの卵』」(休暇制度の在り方と経済社会への影響に関する調査研究委員会報告書)と言っています。

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