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年俸制の場合は時間外割増賃金を支払わなくてよいのか

雇用問題Q&A 社会保険労務士 曽我 浩

 「月刊保団連」の好評連載記事から、著者および発行元の許可を得て転載して紹介します。
 なお、ここに掲載した記事は、それぞれ掲載時点の情報です。関係法令の改定や行政当局の新たな通知等によって、取扱いが変更されている事項が含まれている可能性があります。ご高覧にあたって、予めご了承ください。

年俸制の場合は時間外割増賃金を支払わなくてよいのか
【2014年11月】


 開業医で年俸制を採用している友人がいます。この場合、時間外手当を支払わなくてもいいと言っていますが、トラブルになることはないでしょうか。


 年俸制によって時間外労働の割増賃金支払いを回避できるとする時期もありましたが、そんなことはありません。私も関与先事業所でそのようなことをいまだに聞くことがあるので、実は驚いています。


 年俸の中に残業代が含まれているとすれぱいいのではないですか。


 かつてはそのような考え方もありましたが、今では通用しません。私も最近いくつか労働基準監督官の臨検に立ち会いましたが、基本給や手当に時間外手当が含まれているという言い方は一切認めませんでした。もしも含まれるなら何時間分の残業代でその額はいくらか明記しろというわけです。こうした対策をしておかないと年俸制の場合、思わぬ高額の時間外割増賃金や深夜手当を請求されることいなります。


 どういうことですか。


 通常割増賃金を計算するときは、基本給など労働基準法施行規則で定められた毎月支払う賃金を年間の平均所定月当たり労働時間で除して時給単価を算出します。その際、賞与など「臨時に支払われる賃金」や「一箇月を超えるごとに支払われる賃金」は割増賃金の算定基礎から除外されます。ところが年俸制になると賞与として支払った分が除外されません。


 具体的に言うとどうなりますか。


 たとえぱ年収400万円で、月給25万円、夏賞与2ヵ月分50万円、冬賞与2ヵ月分50万円、年間の月当たり平均所定労働時間が160時間とします。通常であれば割増賃金の時間単価は25万円÷160時間×1.25≒1953円です。ところが年俸制の場合賞与を除外できませんから、年俸400万円の場合の割増賃金の時間単価は400万円÷12月÷160時間×1.25≒2604円となってしまいます。したがって実際残業時間があればこの単価で年俸額を払って、さらに残業代を追加して支払わなけれぱなりません。


 私としては十分な賃金を支払っていると思いますから、労働契約で残業代は請求しない旨契約したらどうなりますか。


 労働基準法は「強行法規」ですから、そのような契約をしても残業代は支払わなけれぱなりません。


 しかし、年俸制の中には残業代が含まれていると思っている経営者が多いと思います。


 それなら就業規則などに「基本給のうち5万円を時間外手当に対する内払として支給する」などと明記し、定められた時間を超えた場合はさらに時間外手当を支払う旨を明記する必要があります。これは定額残業制度と言います。ブラック企業が悪用し国会でも大きな問題になったため、ハロー・ワークで求人の時にかなりチェックされます。残業代を節約するための年俸制であれば私はやめた方がいいと思います。通常の月給制にし、時間管理をしっかりし、残業代もきちんと支払い、その結果余裕が無くなれば賞与を支払わなければいいのです。賞与は法律で支払いが義務付けられているわけではありません。

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