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賃金は成果主義か年功賃金か

雇用問題Q&A 社会保険労務士 曽我 浩

 「月刊保団連」の好評連載記事から、著者および発行元の許可を得て転載して紹介します。
 なお、ここに掲載した記事は、それぞれ掲載時点の情報です。関係法令の改定や行政当局の新たな通知等によって、取扱いが変更されている事項が含まれている可能性があります。ご高覧にあたって、予めご了承ください。

賃金は成果主義か年功賃金か
【2014年7月】

Q
 私は診療所を5か所経営しています。経営的にも厳しく、また職員に働きがいを持たせるために、収益を上げる診療所には賞与を多く払おうと思いますがどうでしょうか。

A
 安倍首相も賃金は労働時間に関係なく高収入労働者には成果に応じて支払うことを提案しています。日本の大企業では80%が成果主義賃金になっているとも言われています。しかし、成果主義賃金導入は医療機関では慎重であるべきです。

Q
 しかし、一生懸命働く人もそうでない人も賃金が変わらないのでは不公平ではないですか。
 それに人間は評価されてこそ成長するのではないですか。

A
 確かにそのような面はあります。しかし、評価と賃金を結びつけると問題が起きます。以前、ある医療機関で、受付の新人パートの賃金を5年いた人と同じにしたら、 5年いた人が「なんで新人が私と同じなの」と言って泣いて悔しがっていました。賃金はお金であってお金でないと言われています。

Q
 やはり人事評価をきちんとして、それに基づき成果主義で賃金を決めるのがいいのですか。専門家に賃金体系を作ってもらうこともできますか。

A
 専門家に頼む場合、依頼する方がよっぽどしっかりしていないと難しいです。従業員30人のある事業所で、かなりの高額を支払ってコンサルタントに1年掛かって賃金体系を作ってもらったものの、実施してみると評価にあまりにも時間が取られ、元の賃金体系に戻ってしまいました。

Q
 どの辺が大変だったのですか。

A
 そこでは、「仕事調べ」と言って、仕事を書き出し、それを評価して期間ごとにチェックしていったそうです。

Q
 当然なことで、良いように思いますが。

A
 確かに仕事について話し合いが持たれたことはよかったと経営者の方は言っていました。しかし、手間がかかって大変ということでやめてしまいました。

Q
 人事評価はしても意味がないということですか。

A
 いいえ、評価は大切です。ただ評価と賃金を結びつける成果主義、つまり「アメとムチ」の賃金制度は効果が長続きしないということが明らかになってきました。それに日本では多くの企業で評価の基準を明確にしていません。米国の賃金制度の研究者によると米国では、基準を明確にし、個々の労働者がどう評価されているかの評価票を労働者に示し、サインをもらわないと裁判で負けてしまうそうです。能力で評価したのに「俺は黒人だから賃金力が低い。私は女性だからだ。人種差別だ。女性差別だ」ということになり、裁判でとんでもない賠償金を支払うことになります。

Q
 どんな賃金制度にすべきでしょうか。

A
 大企業と違い、中小企業では個々の労働者の顔が見えます。それに新卒一括採用のところはまれです。私は、中小企業では世間相場や個々の労働者の生活条件を見ながら、ある程度どんぶり勘定でもいいと思っています。経営者の直観は意外と正しいのです。事実、年功賃金でうまくいっている中小企業もあります。

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