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仕事が遅すぎる職員を解雇できるか

雇用問題Q&A 社会保険労務士 曽我 浩

 「月刊保団連」の好評連載記事から、著者および発行元の許可を得て転載して紹介します。
 なお、ここに掲載した記事は、それぞれ掲載時点の情報です。関係法令の改定や行政当局の新たな通知等によって、取扱いが変更されている事項が含まれている可能性があります。ご高覧にあたって、予めご了承ください。

仕事が遅すぎる職員を解雇できるか
【2014年5月】

Q
 就職から半年も経つのに他の職員と比べ仕事が遅い医療事務職員がいます。他の職員からも不満が出ています。私としては解雇したいと思っていますが言い出せずにいます。また解雇は難しいとも聞きます。解雇は本当に難しいのでしょうか。

A
 能力不足を理由とした解雇は難しいと言われています。理由は、経営者側がどのような能力を求めているのか明確にしていないからです。私の関与先でも能力不足を理由に解雇がありました。しかし、裁判ではかなり著名な弁護士に依頼しましたが負けてしまいました。「ろくに教育もせず、注意もしないで解雇はないでしょう」ということでした。先生のところでは医療事務の仕事に対しどの程度のことを求めているのか明確にし、それを職員に伝えていますか。

Q
 大学出身者です。一通り教えれば、あとは自分の考えでこなしていけると思っていましたから、そのようなことは考えたこともありません。それに仕事は自分で見つけ、気か付いたことを進んでやるものではないのでしょうか。

A
 その職員と他のスタッフの仕事の範囲区分、責任分担はどうなっていますか。

Q
 医療事務の仕事はいろいろありますから、区分など明確にしないのではないのですか。

A
 確かに日本は賃金を仕事ではなく「人」に対して支払ってきましたから、それでもいいと言えますが、能力がないというのなら、先生の求める能力を明確にする必要があります。

Q
 少しくわしく説明してください。

A
 賃金は、労働基準法では「労働の対価」とされています。アメリカでも中国でも賃金は仕事に対して支払っています。つまり同一労働同一賃金の原則が貫かれています。ところが日本では同一労働をしても人によっては賃金が全く違います。アメリカなどでは「あなたはこのように評価されているからこの賃金だ。こういう仕事をしているからこの賃金だ」ということを明確にしておかないと裁判で経営者が負けてしまうそうです。
 「俺はちゃんと仕事をしているのに黒人だから賃金が低い。人種差別だ」と訴えられ、とんでもない慰謝料を払うことになりかねないのです。従って本人の仕事能力を評価した書類にサインをもらうことが当たり前になっています。
 つまり自分は能力がないと評価されているかどうか労働者は知っているのです。ところが日本の多くの診療所では、職員は自分がどのように評価されているのか知りません。このような状態で能力がないと言っても通じません。

Q
 しかし、仕事が遅いのはどうすればいいのですか。

A
 まず仕事が他の職員よりも遅いことを伝え、口頭でいいので注意することです。

Q
 口頭では何度も注意しています。それでも直らないので解雇しようと思っているのです。

A
 そうであれぱ「業務改善指導書」(イエローカード)を活用すべきです。

Q
 「イエローカード」ですか。

A
 そうです。簡単な指導文書を渡すのです。弁護士によっては、このイエローカードを渡しておいたおかげで和解の時の解決金が100万円安くなったという人もいます。実際にはイエローカードを何枚か渡してから退職勧奨すると多くの人が退職に応じます。それと仕事を早くするにはストップウォッチが有効です。自分の仕事時間に関心を持つだけで時間短縮になります。

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