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直前に有給休暇を申請した従業員に不利益取り扱いはできるか

雇用問題Q&A 社会保険労務士 曽我 浩

 「月刊保団連」の好評連載記事から、著者および発行元の許可を得て転載して紹介します。
 なお、ここに掲載した記事は、それぞれ掲載時点の情報です。関係法令の改定や行政当局の新たな通知等によって、取扱いが変更されている事項が含まれている可能性があります。ご高覧にあたって、予めご了承ください。

直前に有給休暇を申請した従業員に不利益取り扱いはできるか
【2013年4月】


 2~3日前に有給休暇を請求した労働者を解雇したことが無効になったというニュースを見ました。私のところは、有給休暇は1週間前までに請求するようにしています。2~3日前に有給休暇を請求した者に有給休暇申請を与えることを拒否できるでしょうか。

A
  直前の有給休暇を請求したからといって解雇するのは認められないと思います。それでは解雇しないまでも拒否はできるでしょうか。「事業の正常な運営を妨げる」というものでない限り拒否はなかなか難しいと思います。できるのは時季変更権の行使だけです。つまり事業の正常な運営を妨げる場合は有給休暇を取得する時季を変更できます。これを時季変更権といいます。


 私のところのように小さな診療所では、急には体制をとれません。このような場合でも「時季変更権」を行使できないのでしょうか。

A
  できるかもしれませんが、いつも忙しくて通常でも有給休暇が取れないようになっているのは問題です。


 当日になって有給休暇を申請した従業員にやむを得ず有給休暇を与えましたが皆勤手当は支給しませんでした。これは無効でしょうか。

A
  好ましくはありませんが、必ずしも無効ではありません。事前に有給休暇を申請した場合は、皆勤手当はどうなっていますか。


 その場合は、皆勤手当は普通に支給しています。

A
  そうであれば必ずしも公序良俗に反するといえません。実際、勤務表決定後に有給休暇を取得したタクシー運転手に皆勤手当を支給しなかったことがありました。この件については公序に反しないといった判例もあります。ある薬局店で有給休暇をよく取るスタッフが長期の有給休暇を申請してきたので「同僚の理解を得て取ってほしい」と言ったところ有給休暇を短くしたことがありました。いつも忙しくて有給休暇がなかなか取れない今の日本の現状は問題があります。


 そうかもしれませんが、実際、みんなが法律通り有給休暇を取ったら診療所は回転していきません。

A
  診療報酬の低下や医師不足の中でゆとりがなく、そのような面もあると思います。また大局的にみると、日本人の働き方に無駄が多いと言う研究者もいます。この無駄をなくしただけであと14日有給休暇を増やせるということです。


 無駄は無いように見えますが、まだ無駄の排除に向けて検討できるところもあるかもしれません。

A
  国際条約であるILO条約の労働時間関係については、日本は全く批准していません。誤解を恐れずに言えば、私からすれば日本の労働組合は労働時間短縮についてあまり重視していないのではないかと思うことがあります。メーデーも5月1日にしなくなってしまいました。労働時間を短縮してこそ賃上げができるという経済の仕組み、石川啄木が100年近く前に直感的に「はたらけど、はたらけど猶わがくらし楽にならざり、ぢっと手を見る」と指摘した労働者同志が競争し自身を安売りする長時間労働こそ低賃金の原因だという経済の仕組みがわかっていないのではないかと思うことがあります。長期の有給休暇が取れるようになれば過労死も大幅に減ると思います。

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