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「仕事中のケガ」健康保険と労災保険の谷間

雇用問題Q&A 社会保険労務士 曽我 浩

 「月刊保団連」の好評連載記事から、著者および発行元の許可を得て転載して紹介します。
 なお、ここに掲載した記事は、それぞれ掲載時点の情報です。関係法令の改定や行政当局の新たな通知等によって、取扱いが変更されている事項が含まれている可能性があります。ご高覧にあたって、予めご了承ください。

「仕事中のケガ」健康保険と労災保険の谷間
【2012年12月】


 シルバー人材センターから紹介された高齢者が仕事中にけがをしたのに、労災保険からも健康保険からも支給されない事件がありましたが、どういうことですか。

A
  この人の場合、業務災害であることは明らかですが、シルバー人材センターとは委託契約で労働契約関係にない、つまり労働者でないとして労災保険からは給付がありませんでした。


 シルバー人材センターの人は労働者でないのですか。

A
  労働基準監督署の労災担当者に聞きますと、労災事故の報告が来た時、第一に注目するのは事故の原因よりもその業務災害に遭った人が労働基準法上の労働者かどうかということです。


 労働基準法上の労働者でない労働者とはどういう人ですか。

A
  例えば無給のインターンシップの学生やプロ野球の選手などです。プロ野球選手は労働組合をつくっていますが、労働基準法上の労働者ではありません。したがって試合中にけがをしても労災保険からは支給されません。


 健康保険からも支給されないのですか。

A
  健康保険法では「労働者の業務外の事由による疾病、負傷」「その被扶養者の疾病、負傷」に関して給付するとなっていますから業務中のケガは支給されません。


 私は医療法人の理事長で健康保険に加入しています。私の場合も診療所の階段で転んでケガをしたら、健康保険も労災保険も使えないのですか。

A
  被保険者が5人未満の場合、治療には健康保険を例外的に使えますが、先生のところのように正社員だけで30人もいるところは先生が業務中にケガをした場合、健康保険も労災保険も使えません。まさに保険の谷間にいるといえます。


 国民健康保険はどうですか。

A
  市町村の国民健康保険や医師国保は業務上かどうかは問いませんから業務災害でも使えます。ただ業務災害には使えない国保もありますから注意が必要です。


 私の病院に勤めているパート職員は夫の健康保険の被扶養者ですが、通勤中に自転車でひっくり返り大ケガをして健康保険で治療したところ、後で健康保険から通勤災害だから健康保険から給付した療養費を返還するように言ってきました。私なども自宅から病院へ通勤する途中の事故の場合、健康保険を使えないのでしょうか。

A
  通勤災害は業務災害ではありませんから、事業主は健康保険を使えます。


 しかし業務災害の時は事業主は大変ですね。民間の保険に加入しておいたほうがいいのでしょうか。

A
  それも一つの方法かもしれませんが、私としては中小企業主(医療の場合は従業員100人以下)が加入できる労災保険の特別加入制度を活用することをお勧めします。特別加入の最大のメリットは治療費が無料になるということです。民間の保険はお金が出るだけです。大きな事故の場合とても間に合いません。特別加入するには労働保険事務組合に労働保険手続きを事務委託しなければなりません。保険医協会で労働保険事務組合があるところもあります。心当たりのない場合は労働基準監督署で紹介してくれます。

[註]奈良県保険医協会には、労働保険事務組合はありません(2012年12月現在)。

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