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労働基準法の改正で医院経営にはどのような影響が

雇用問題Q&A 社会保険労務士 曽我 浩

 「月刊保団連」の好評連載記事から、著者および発行元の許可を得て転載して紹介します。
 なお、ここに掲載した記事は、それぞれ掲載時点の情報です。関係法令の改定や行政当局の新たな通知等によって、取扱いが変更されている事項が含まれている可能性があります。ご高覧にあたって、予めご了承ください。

労働基準法の改正で医院経営にはどのような影響が
【2010年2月】


 労働基準法が改正されるということで割増賃金率が引き上げられるということですが医院経営に影響が出ますか。またなぜ今労働基準法の改正なのでしょうか。

A
 なぜ今労働基準法の改正かということですが、厚生労働省の調査では1週間に60時間以上働く人の割合が10%になっているというのです。「こうした働き方に対し、労働者が健康を保持しながら労働以外の生活のための時間を確保して働くことができるよう労働環境を整備することが重要な課題となっています」(厚生労働省パンフ)。


 この不況でも長時間労働は減らないのですか。

A
 一部製造業では労働時間が減っていますが、サービス業、金融機関などは相変わらず長時間労働は、減っていません。私の経験でも中小企業の労働者からの訴えは増えていますが、大企業の特にホワイトカラー労働者の長時間労働は相変わらずのようです。


 1週間に労働時間が60時間ということは、残業が1カ月80時間から100時間ということでしょ。

A
 そうです。これは厚生労働省が指摘している「過労死」になる可能性のある残業時間です。さらに深刻なのは「30歳代の子育て世代の男性のうち週60時間以上労働する労働者の割合は20%となっており、長時間にわたり労働する労働者の割合が高くなっています。」(総務省「労働力調査」平成20年)という現実です。


 不況だから長時間働くのは仕方がないのですか。

A
 いや逆です。労働者全員が週40時間にすれば現在失業している人をかなり雇わなければなりません。そうすれば、失業者やワーキングプアが無くなり国民総生産の半分を占める個人消費が上がり景気がよくなります。しかし、個々の企業が勝手に時間短縮をすると長時間労働をしている企業に競争で敗れてしまいますから時間短縮は進みません。やはり国家の強制が必要です。ある労働基準監督署の元署長は「実は労働時間短縮こそ景気回復の『コロンブスのたまご』です」と言っていました。


 一見逆のように見えますがまさにこの長時間労働が常態化している状態は「はたらけどはたらけど猶わが生活(くらし)楽にならざりぢつと手を見る」(石川啄木)状態が全国を覆っているわけですね。それにしてもなぜ労働基準監督署は大企業に調査に入ったり指導をしたりしないのでしょうか。

A
 我われが質問すると「大企業だからといって差別はしない。一応やっている」と言います。しかし、私の感想では労働基準監督官はあまりにも忙しすぎます。それに大企業労働者からの訴えはほとんどありません。


 今度の改正のポイントは何ですか。

A
 ①「時間外労働の限度に関する基準」の見直しです。たとえば、1カ月の時間外労働が基準の45時間を超える場合は、労働協定で割増賃金率を定めることになり、しかも25%を超える努力義務が課せられました。②月60時間を超える法定時間外労働に対し50%以上の割増賃金を支払わなければならなくなりました。ただこれは100人以下の医療機関には当分の間免除されています。③労使協定により年次有給休暇を時間単位で付与することができるようになりました。


 私のところでは職員も20人程度ですし、1カ月45時間以上も時間外労働させることはありませんから関係ないようですが、時間単位の年休については以前から要望もあったので検討しなければなりません。

A
 そうです。時間単位で年休を取れるのは1年間に5日が限度です。それに伴いこれには就業規則も変更しなければなりません。詳しくはまた別の機会に紹介したいと思います。

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