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パワーハラスメントも軽視せず

雇用問題Q&A 社会保険労務士 曽我 浩

 「月刊保団連」の好評連載記事から、著者および発行元の許可を得て転載して紹介します。
 なお、ここに掲載した記事は、それぞれ掲載時点の情報です。関係法令の改定や行政当局の新たな通知等によって、取扱いが変更されている事項が含まれている可能性があります。ご高覧にあたって、予めご了承ください。

パワーハラスメントも軽視せず
【2008年9月】


 最近、優秀な新人看護師が退職しました。どうも「いじめ」があったようです。私は、彼女が退職するまでそのようないじめがあるなどと、まったく気づきまぜんでした。

A
  (社)日本産業カウンセラー協会の調査(2008年5月)によると74%の企業でいじめがあったとされています。最近ではパワーハラスメントと呼ばれ、経営者としても無視できない問題となっています。私の関与先でも次々に新入社員が退職するので調べてみると、古参職員のいじめがあったことがわかりました。その古参職員の方は熱心に仕事をするので、経営者の方は当初まったく気づきませんでした。


 患者さんのことだけでなく、職員間の人間関係も注意を払う必要があるのですか。

A
 そうです。経営者には業務の遂行に当たり、労働者の生命や健康などを危険から守るよう配慮する義務があります。これは、判例で確立されています。さらに、快適な職場環境を提供する義務があります。セクハラが問題になったのもこのためです。最近、パワーハラスメントで自殺したとして企業に損害賠償を命じる判決も出されました。


 職員がミスをすれば叱ったり、虫の居所が悪いとついつい怒鳴ったりすることもあります。これもパワーハラスメントですか。

A
 一般的にパワーハラスメントとは、上司が部下に対して、権力を利用して行う精神的暴力・精神的虐待と理解されています。医療機関では、緊急の場合は悠長なことを言っていられないことがあります。そのとき、厳しく叱責することもあります。これは当然なことでパワーハラスメントとはいえません。


 叱責とパワーハラスメントは区別が難しいですね。

A
 一般的にパワーハラスメントとは①職務上の権力を背景にしている②本来の業務の範囲を超えている③継続的に人格と人間の尊厳を傷つける言動を行う④就労者の就労環境を悪化させる、あるいは雇用不安を与える―のすべてを満たすことといわれています。


 抽象的で分かりにくいですね。

A
 医療機関の事例では、男性の先輩看護師が、同じく男性の後輩看護師にパワハラで自殺させた事例があります。


 具体的にどんなことをしたのですか。

A
 報道によれば、①勤務終了後も遊びにつき合わせる②風俗店への送迎、馬券の購入など私事に使用する③恋人とのデート中に用事もないのに病院へ呼び出す④事務職の女性と性的な行為をさせ、それを撮影しようとした⑤仕事中に何かあると「死ねよ」と発言したり、「殺す」とメールしたりした―などです。この事件では、加害者は当然ですが病院に対しても安全配慮義務違反の債務不履行があったとして500万円の損害賠償が命じられています。


 私のところではそんなにひどいことは無いと思いますが、いじめは昔からあります。それによる自殺まで経営者の責任なのでしょうか。個人の資質もあるのではないでしょうか。

A
 確かに、同じようないじめを受けても自殺する人としない人がいます。自殺された方の遺書を見せてもらうと、几帳面な字を書く方が多いようです。しかし、だからといってそれを個人の資質で済ませるわけにはいきません。


 パワーハラスメントの対策はどのようにすればいいでしょうか。

A
 セクハラ対策が参考になります。①職場におけるパワーハラスメントの内容、および職場でパワーハラスメントがあってはならない旨の方針を明確にし、周知徹底②相談窓口の明確化③パワーハラスメントが発生したときの迅速な対応―などが考えられます。


 抽象的ですね。

A
 私も、簡単な解決策はあると思っていません。しかし、軽視できない問題ですから、まずパワーハラスメント防止規程などの作成から取り組んではいかがでしょうか。モデルは保団連発行の『医療経営と雇用管理』(No.954)にあります。

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