奈良県保険医協会

メニュー

岩手・宮城内陸地震のときの労災は

雇用問題Q&A 社会保険労務士 曽我 浩

 「月刊保団連」の好評連載記事から、著者および発行元の許可を得て転載して紹介します。
 なお、ここに掲載した記事は、それぞれ掲載時点の情報です。関係法令の改定や行政当局の新たな通知等によって、取扱いが変更されている事項が含まれている可能性があります。ご高覧にあたって、予めご了承ください。

岩手・宮城内陸地震のときの労災は
【2008年8月】


 岩手・宮城内陸地震は大変痛ましい結果になってしまいました。関係者の方々には心よりお見舞い申し上げたいと思います。ところで、ダム建設工事現場の落石により死亡された方たちは労災保険から遣族補償給付などはあるのでしょうか。

A
 労災保険における業務災害は、事業主の支配下にあることに伴う危険が現実化した場合をいい、いわゆる天災地変による災害はたとえ業務遂行中に発生したものであっても一般的には「業務起因性」は認められないとされています。


 それでは今回は労災からの給付はないのですか。

A
 いえ、今回の地震の発生したこの地域は地震が来なくても山崩れの危険が常にあるところです。それがたまたま地震を契機として今回の災害が起きたとすれば、私は「業務起因性」が認められると思います。別な事例ですが、厚生労働省も通達で「『天災地変による』というべきではなく、天災地変を契機として当該家屋等に内在した危険が現実化したものとみるのが妥当である」として業務災害と認めるよう指導しています。


 私は東京にいますが、関東大震災が起きたときは従業員に労災保険から給付はあるのですか。

A
 先生の診療所がある地域は、土砂崩れのような危険がまったくありませんから、業務起因性はないとされ労災からの給付はないでしょう。しかも関東大震災が起きれば危険性があろうがなかろうが災害があるわけですから「業務起因性」はないということになります。


 しかし、今回の地震はかなり大きかったといえませんか。従って、土砂崩壊の危険性があろうがなかろうが被害が発生したということになりませんか。

A
 そのような解釈も可能ですが、土砂崩れのない地域では死亡事故などは交通事故を除けば発生していないわけですから、私は今回死亡されたダム工事現場の労働者については業務災害とすべきと思います。


 駒ノ湯温泉で生き埋めになった人たちはどうですか。

A
 従業員の人たちには、労災給付はあると思います。しかし、経営者の家族は単純ではありません。事業主は労働者ではありませんから、基本的には労災給付はありません。家族も労働者とまったく同じように扱われている場合は労働者とみなされる場合がありますが、同居の親族とみなされることはなかなか困難です。ただ労災保険の特別加入をすれば労災保険から給付があります。


 何ですか、その労災保険の特別加入とは。

A
 先生は、いかに他の人よりたくさん働いていても労働者ではありません。従って、仕事が原因で傷病を負っても労災保険からの給付はありません。


 それはひどい。私は労働者以上に働いていますよ。

A
 そうです、中小企業の場合、実態は労働者と大して変わりません。従って、中小企業の場合、労働保険の事務手続きを厚生労働省の認可で行っている団体・労働保険事務組合に事務委託すると、本来労働者として扱われない法人の役員、事業主や家族も「特別に労災保険に加入できる」制度です。保険医協会でもいくつかの県で労働保険事務組合の認可をとって労働保険の事務を行っています。ここに事務委託すると事業主や家族も労災保険に特別に加入することができます。そうすれば業務災害に遭っても治療費は無料になるなど数々の給付があります。


 私も、労働保険事務組合に加入し労災保険の特別加入ができますか。

A
 当然できます。


 ところで、宿泊客の方はどうでしょうか。

A
 会社の業務で出張中の方は労災保険から給付がありますが、労働者でないとされると労災保険からは給付はありません。

雇用問題Q&A

さらに過去の記事を表示