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所定労働時間を延ばしたいが、就業規則の不利益変更は可能か

雇用問題Q&A 社会保険労務士 曽我 浩

 「月刊保団連」の好評連載記事から、著者および発行元の許可を得て転載して紹介します。
 なお、ここに掲載した記事は、それぞれ掲載時点の情報です。関係法令の改定や行政当局の新たな通知等によって、取扱いが変更されている事項が含まれている可能性があります。ご高覧にあたって、予めご了承ください。

所定労働時間を延ばしたいが、就業規則の不利益変更は可能か
【2008年5月】


 私の診療所の診療時間は、10時から17時30分です。今までは18時までには業務が終了していました。しかし最近、延長傾向にあります。残業手当を支給するのは経営的に厳しいので、これを延長しようと思います。問題はありますか。

A
 先生の診療所は、所定労働時間はどうなっていますか。


 9時45分から18時までです。

A
 休憩時間はどうなっていますか。


 13時から1時間です。

A
 そうすると、所定労働時間は7時間15分ということになります。これをどのくらい延ばす計画ですか。


 始業はそのままで、終業時刻を18時30分にしたいと思います。

A
 そうすると8時間以内ですね。


 ところが「就業規則の不利益変更はできないのではないのか」という職員がいます。私も念のため労働基準監督署へ電話で問い合わせたところ「望ましくない」という返事でした。しかし労働基準法を守っているわけですから問題はないのではないでしょうか。しかも、私のところは日曜日と木曜日が休みで、土曜日は終業が13時です。労働基準法の制限の1週40時間をかなり下回っています。

A
 就業規則の不利益変更「是か非か」は昔から争われてきました。


 しかし、労働基準法を守れば問題ないのでしょ。

A
 いえ、そういうわけにはいきません。労働基準法第1条でも「この法律で定める労働条件の基準は最低のものであるから、労働関係の当事者は、この基準を理由として労働条件を低下させてはならないことはもとより、その向上を図るように努めなければならない」と明記されています。


 経営状態を見て経営的に厳しいときは、就業規則を労働者にとって厳しくするのも当たり前ではないでしょうか。就業規則を多少労働者にとって不利益に変更するのは、致し方のないことではないでしょうか。

A
 そうなんです。その点が今年(2008年3月1日)から実施された労働契約法の国会論議で大きな問題になりました。


 就業規則の変更も問題になったのですか。

A
 労働契約法第9条では「使用者は、労働者と合意することなく、就業規則を変更することにより、労働者の不利益に労働契約の内容である労働条件を変更することはできない」とされました。


 分かりにくい日本語ですが、就業規則を不利益に変更することができなくなったのですか。

A
 妥協の産物なのですが、ただし書きがあって、変更後の①不利益の程度、②労働条件変更の必要性、③変更後の就業規則の内容の相当性、④労働組合等との交渉の状況、などに照らして合理的なものであるときは変更できるとされています。


 所定労働時間の延長はどうなんですか。

A
 今挙げた4要素に該当し合理的なものであれば認められます。


 だれがそれを判断するのですか。労働基準監督署ですか。

A
 最終的には、裁判所です。


 そうすると私は裁判にでもならない限り所定労働時間を延長してもいいわけですね。

A
 法的にはそうですが、私は労働者の同意を得るようにすべきだと思います。職員数もそう多いわけではないので、話せば分かってくれると思います。


 私のところの職員は、これまでの関係から言って裁判をすることはないと思います。

A
 そうかもしれません。しかし、先生はこの診療所をやめるわけにはいきませんが、職員はやめることができます。優秀な職員の退職による損害は決算書には出てきませんが、大変なものです。

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