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医療機関も例外でない労働基準監督署の調査

雇用問題Q&A 社会保険労務士 曽我 浩

 「月刊保団連」の好評連載記事から、著者および発行元の許可を得て転載して紹介します。
 なお、ここに掲載した記事は、それぞれ掲載時点の情報です。関係法令の改定や行政当局の新たな通知等によって、取扱いが変更されている事項が含まれている可能性があります。ご高覧にあたって、予めご了承ください。

医療機関も例外でない労働基準監督署の調査
【2007年9月】


 私の知人の歯科医のところに、労働基準監督署から、就業規則、賃金台帳、タイムカードを持ってくるように連絡があったということですが、このようなことはよくあることですか。

A
 医療機関ではあまりありませんでしたが、一般では結構あります。しかし歯科ばかりでなく医科でも休憩もろくに取れなくて労働時間が長時間化しているところも増えています。


 どうも退職した職員が「残業手当をもらっていない」と訴えたらしいのです。

A
 最近そのような残業手当未払いで訴える事例が増えてきました。私の関係する従業員20人の会社で、5人が一斉に辞め労働基準監督署に訴え、未払い残業代約1,000万円支払ったことがありました。


 そんなに支払ったら私の診療所などつぶれてしまいます。急患が来たりして、ついつい残業になってしまいます。医療従事者ならそんなこと覚悟していると思います。

A
 人間関係がうまくいっている時は、問題が表面化しません。しかしトラブルがあって辞めた時はサービス残業の訴えが多いですね。


 労働基準監督署は、どんなことを言ってきますか。

A
 労働時間の調査の時は、従業員が10人以上であれば、「①就業規則は有りますか。②所定労働時間はどうなっていますか。③出勤簿、タイムカードを見せてください。④残業がありますね。時間外協定を労働基準監督署へ出していますか。⑤残業手当はどうやって計算していますか」といった具合です。


 10人以上というのはパートも含めますか。

A
 はい、パートも含めて常時10人以上の事業所は、就業規則の労働基準監督署への届出が義務付けられています。

■従業員10人未満でも就業規則作成を


 私の診療所は10人いないから就業規則は必要ありませんね。

A
 法律上そうですが、従業員10人未満でも就業規則は作っておいた方がよいという声を保険医協会の労務管理学習会で参加者から聞きます。


 就業規則を作るのは大変でしょう。

A
 そんなことはありません。私は『月刊保団連』臨時増刊号『医院経営と雇用管理』(2004年No.843)の就業規則を下敷きに作ることを勧めています。就業規則は毎月変えてもいいと思っています。


 私のところでは、時間外協定もありませんが、出さなければいけないのでしょうか。

A
 本来残業は「犯罪」です。ただ、時間外協定を労働基準監督署に提出しておくと、時間外労働をさせても犯罪にならないということになるだけです。過去には時間外協定なしに時間外労働をさせたとして「別件逮捕」された事例もあります。


 残業手当を支払っていないと、どのくらい遡って支払うことになりますか。

A
 法律上は2年遡ることができます。従って労働者が訴えた時は2年遡ります。労働基準監督署が「臨検」といって調査に来た時は3ヵ月遡ることか多いようです。労働者が訴えたときは、すべての労働者に2年遡って支払うのが理論的には当然ですが、私の体験では訴えた労働者だけに支払っています。労働基準監督署の「臨検」では、労働者全員に3ヵ月遡って支払う事例が多いようです。労働基準監督署は取り立て機関ではないので必ずしも3ヵ月でないときもあります。


 最近なぜこのように時間管理がうるさくなってきたのですか。

A
 やはり長時間労働による「うつ病」「過労死」がかなり深刻になっているからです。

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