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能力が低く勤務態度の悪い職員の解雇

雇用問題Q&A 社会保険労務士 曽我 浩

 「月刊保団連」の好評連載記事から、著者および発行元の許可を得て転載して紹介します。
 なお、ここに掲載した記事は、それぞれ掲載時点の情報です。関係法令の改定や行政当局の新たな通知等によって、取扱いが変更されている事項が含まれている可能性があります。ご高覧にあたって、予めご了承ください。

能力が低く勤務態度の悪い職員の解雇
【2007年1月】


 私の診療所は職員7人です。ところが1年ほど前に雇った職員でミスが多く勤務態度の悪い人がいます。辞めてもらおうと思っていながらついつい言い出せなくて日がたってしまいました。解雇することができるでしょうか。


 労働基準法では「解雇は、客観的に合理的理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして無効とする」と明記するようになりました。


 そうすると解雇した場合、労働基準監督署に駆け込まれると労働基準監督署が何か言ってくるのでしょうか。


 労働基準監督署は解雇する場合30日前に予告したかどうかあるいは解雇予告手当を支払ったかどうかを調査しますが、その解雇が権利の濫用になるかどうかは言ってきません。


 そうすると「権利を濫用」したかどうかはどこで判断するのでしょうか。


 最終的には裁判所です。


 ミスの多い勤務態度の悪い職員を解雇することは「解雇権の濫用」になるでしょうか。


 かなり崩れたとはいえ、今の日本は「長期雇用システム」がまだ機能していますから、裁判をしてもよほどの理由がないと解雇は認められません。


 なんで、そんなに大変なのですか。


 弁護士に聞くと、能力がない、適性がないといっても、裁判官にそれを理解してもらうことが大変だということです。したがって解雇を争う裁判になると、どんな弁護士も解雇が有効になると断言できないとのことです。それに裁判官もいろいろな人がいますから、判決を予測するのは難しいのでしょう。


 能力不足を理由に解雇することが認められるのはどんなときですか。


 一般的には「当該企業の種類、規模、職務内容、労働者の採用理由(職務に要求される能力、勤務態度がどの程度か)、勤務成績、勤務態度の不良の程度(企業の業務遂行に支障を生じ、解雇しなければならないほどに高いかどうか)、その回数(1回の過誤か、繰り返すものか)、改善の余地があるか、会社の指導があったか(注意・警告したり、反省の機会を与えたか)、他の労働者との取り扱いに不均衡はないか」(労働事件審理ノート、判例タイムズ社)など、総合的に検討することになります。実際に「S病院事件」では独善的な助産婦が看護職員として不可欠な共同作業を不可能にしてしまったとして解雇されたことが有効となっています。私の知り合いの弁護士が外資系企業を相手に労働者側の立場から解雇無効を争った事件で負けてしまいました。このとき驚いたのはその労働者に対する注意書、警告書が山のように出てきたことです。


 解雇を争う虞(おそれ)のあるときは文書で注意しておけということですか。


 そうです。経営者としても改善のための努力をキチンとしておき、そのための証拠を残しておくことが大切です。したがって私はある弁護士が考案した「イエローカード」の活用を提案しています。たとえば、非協力的な態度をとったときとか、信じられないようなミスを犯したときなどイエローカード(見本は保団連にあります)を渡すことです。口頭では、なかなかわからない人には効果的です。


 それにしても解雇はいやですね。


 そうです。しかし10人未満の事業所では1人ふてくされた態度を取る人がいるとアッという間に職場全体が暗くなります。したがって改善の見込みのない人には退職願を出すよう提案することが実務的には大切です。


 退職願を出すと雇用保険の給付で労働者が不利になりませんか。


 事業主の勧奨による退職とすれば問題ありません。

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