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労働基準監督署が抜き打ち検査に来て 残業手当を遡って支払えといってきた

雇用問題Q&A 社会保険労務士 曽我 浩

 「月刊保団連」の好評連載記事から、著者および発行元の許可を得て転載して紹介します。
 なお、ここに掲載した記事は、それぞれ掲載時点の情報です。関係法令の改定や行政当局の新たな通知等によって、取扱いが変更されている事項が含まれている可能性があります。ご高覧にあたって、予めご了承ください。

労働基準監督署が抜き打ち検査に来て
残業手当を遡って支払えといってきた
【2006年9月】


労働基準監督署が突然訪ねてきて賃金台帳・出勤簿・タイムカード・労働者名簿を見せろといってきました。このような調査には応じなければいけないのでしょうか。

A
労働基準法では、労働基準監督官は事業場などを臨検し、「帳簿および書類の提出を求め、または使用者もしくは労働者に対して尋問を行うことが出来る」とあります。


罰則はあるのでしょうか。

A
あります。労働基準監督官の臨検を「拒み、妨げ、もしくは忌避し、その尋問に対して陳述をせず、もしくは虚偽の陳述をし、帳簿書類の提出をせず、または虚偽の記載をした帳簿書類の提出をした者」は30万円以下の罰金に処する、となっています。罰金刑は逮捕される恐れがありますからかなりきついですね。


労働基準監督官はそんなに権限があるのですか。

A
労基法にも「この法律違反の罪について、刑事訴訟法に規定する司法警察官の職務を行う」とあります。労働基準監督署の「署」は保健所の「所」と違います。横目でにらむ者と書いて警察署・税務署と同じです。ただ中には偽者もいますから労働基準監督官の身分を証明する「証票」を確認してください。


労働基準監督署の指摘では私の診療所は「10人以上いるのに就業規則を労働基準監督署に提出していない」と指摘されました。この10人にはパートも含めるのでしょうか。交代で出勤しているので診療所自体は10人いないときもあります。

A
労基法では「常時10人以上の労働者を使用する使用者」としていますから、1週間に1日しか来ない労働者も含めて10人以上は届けなければなりません。


時間外労働をさせているのに協定を出していないと指摘されました。

A
労基法では、時間外労働や休日労働をさせる場合は書面による協定を労働基準監督署に届けることになっています。


届けないで時間外労働をさせると罰則があるのですか。

A
あります。この協定は労働基準法36条に基づくもので世にいう「36協定」といわれるものです。本来時間外労働をさせると罰則があります。ただし、この協定を労働基準監督署に届けると罰則を受けないという意味を持ちます。この協定を提出していない事業所もありますが「別件逮捕」に使われやすい条文といわれています。


時間外賃金を計算するに当たって、時間単価の算出の方法が間違っていると指摘されました。

A
残業単価を算出するときは1カ月あたりの平均所定労働時間で残業手当を計算するとき参入すべき賃金を除して計算します。先生のところは1カ月あたりの労働時間は何時間として計算していますか。


月平均22日出勤1日8時間労働です。したがって、22×8=176で176時間です。

A
1カ月あたりの平均所定労働時間を算出するためには1年間の総労働時間を算出し、それを12カ月で除して算出します。週40時間制のもとでは1カ月あたりの平均所定労働時間は173時間以上にはなりません。つまり、1年間は365日。これは365÷7≒52.14週。52.14週×40時間≒2085時間、したがって2085÷12月≒173時間です。先生の診療所の休日はどうなっていますか。


日曜日と木曜日それと祝日・年末年始・夏休みです。

A
そうすると年間125日も休みがあります。1カ月の所定労働時間は160時間になってしまいます。


そうすると残業賃金はかなり高くなってしまいます。これを機会に賃金体系の見直しが必要ですね。(続く)

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