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1カ月単位の変形労働時間制

雇用問題Q&A 社会保険労務士 曽我 浩

 「月刊保団連」の好評連載記事から、著者および発行元の許可を得て転載して紹介します。
 なお、ここに掲載した記事は、それぞれ掲載時点の情報です。関係法令の改定や行政当局の新たな通知等によって、取扱いが変更されている事項が含まれている可能性があります。ご高覧にあたって、予めご了承ください。

1カ月単位の変形労働時間制
【2006年3月】


今度職員にローテーションに基づいて働いてもらいたいと思っています。1日10時間で週4日となる人も出てしまいます。1日10時間働かせてもいいのでしょうか。


確かに労働基準法第32条では「1日について休憩時間を除き8時間を越えて労働させてはならない」とありますがこれは2項で、1項では「1週間について40時間を超えて、労働させてはならない」とあるように週40労働時間制がまずありきなのです。先生のところは1カ月単位の変形労働時間制にすればいいと思います。


なんですか、1カ月単位の変形労働時間制とは。


1カ月を通じて1週間あたり、40時間に時間を超えて働くことが可能になる制度です。


1日10時間のときはどのように決めればいいのですか。


たとえば、31日ある月ですとこの月は何週間でしょうか。31÷7≒4.428(週)です。 1週40時間ですから40×4.428≒177時間。つまり31日の月は177時間以内に抑えればいいのです。同様に30日の月は171時間以内にすればいいのです。


そうすると1日10時間の人は、1カ月あたりの出勤日を17日にすればいいのですか。


そういうことになります。1カ月あたりの変形労働時間制の場合は、労働者の同意は必要ではなく就業規則を変えれば問題ありません。しかし、当然のことですがよく説明する必要はあります。


この場合休みの日に働いてもらう場合は休日労働になりますか。


いえ、労働基準法は6労働日1休日が原則ですから1週につき1日休みを与えていれば休日労働になりません。したがって、休日に働いてもらっても、割増賃金は3割5分増しでなく2割5分増しでいいのです。


職員が有給を取った週は休日に働いてもらった場合でも、実労働時間は40時間以内であれば、時間外割増賃金を支払わなくていいのでしょうか。それとも有給は働いたものとみなすのでしょうか。


その場合は、時間外労働になりません。


最近新聞記事に多様な働き方に対応するため、労働時間規制を大幅に緩和して裁量労働制を導入することがありますが、うちの診療所ではどうでしょうか。


これは、「ホワイトカラー労働者の増加と働き方の多様化が進み、その中でも、自立的に働きかつ、労働時間の長短ではなくその成果や能力などのより評価されることがふさわしい労働者が増加」しているとして厚生労働省が発表したものですが、診療所では労働者の評価それと支払っている報酬などの面から見て私は問題ありと思います。結局時間外賃金を支払わない口実に使われると思われるでしょう。実際大手企業で現在進んでいる労働実態はかなり深刻なものになっています。これは経営者側の弁護士も話していますから私だけの意見ではありません。


しかし、厳しい経済情勢の下では思い切って働くことはいたし方のないことでしょう。


確かに『月刊保団連』05年12月号の特集記事の女性医師の実態と比べれば、日本のホワイトカラー労働者の労働実態は、それほど深刻なものではないという見方もあるかも知れません。しかし、私は長時間労働こそ諸悪の根源だと思っています。労働基準監督署のなかにも時間短縮こそ日本経済の回復の「コロンブスの卵」といっている人もいます。


どういうことですか。


時間短縮をすれば、たとえば旅行も増える旅館が儲かる、失業者がなくなる失業の不安がなくなり将来の不安がなくなる消費が増える。


そんなにうまくいくものですかね。


個々の事業所が時間短縮しても競争者に、敗れてしまいます。私の知人の歯科医の先生も同業者が遅くまでやるのでどうしても診療時間が長くなると嘆いておられました。やはり国が全国的に規制すべきと思います。今の流れは逆の方向だと思います。

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