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退職金を引き下げることは可能か

雇用問題Q&A 社会保険労務士 曽我 浩

 「月刊保団連」の好評連載記事から、著者および発行元の許可を得て転載して紹介します。
 なお、ここに掲載した記事は、それぞれ掲載時点の情報です。関係法令の改定や行政当局の新たな通知等によって、取扱いが変更されている事項が含まれている可能性があります。ご高覧にあたって、予めご了承ください。

退職金を引き下げることは可能か
【2011年10月】


 最近何人かの職員が退職し、この時支払った退職金の額の大きさに正直驚きました。
 今の退職金制度を続けると経営に大きな影響を与えることは確実です。退職金を引き下げることは可能でしょうか。

A
 退職金はどうやって計算しているのですか。


 最後の基本給に一定の率を乗じて計算しています。現在考えているのはこの率を引き下げることです。

A
 多くの医療機関が退職金の問題に頭を痛めています。しかし、引き下げることはなかなか大変です。


 退職金規程を変えればいいのではありませんか。退職金規程は就業規則ですから労働者代表の意見を聞いて変えることができるのではないのですか。以前、たとえ「この就業規則の変更に反対」という意見でも労働者代表の意見を聞けば就業規則は変えられる、と言っていたではありませんか。

A
 確かに労働基準法上はその手続きで問題ありませんが、最高裁判例や労働契約法では労働者に一方的に不利益な変更はできないことになっています。


 不利益な変更はどんなことがあっても絶対にできないのですか。

A
 いいえ、それが合理的なものであれば可能です。


 経営的に苦しいのですから合理的な理由になるのではないでしょうか。

A
 これまでの判例では「経営的に苦しい」程度では理由にならないとされています。


 労働者の同意を得ればいいのではないですか。

A
 そのような言い分も成り立ちますが、就業規則以下の労働契約は無効ですから、後で問題が起きる可能性はあります。


 これまでの分についてはこれまでの方法で計算し、これからの分については新しい就業規則(退職金規程)で計算するのはいいのでしょうか。

A
 これまでの退職金は既得権として当然保護されますが、これからの分も受け取れると思ってきた従業員の期待権を取り上げるほどの代替措置がない限り無理でしょう。一方的に引き下げた退職金規程に基づき退職金を支払った医院で、退職した従業員が「1人でも加入できる労働組合」に加入し、労働組合から団体交渉を申し込まれている先生もいらっしゃいます。


 それではどんな場合に退職金規程を変更できるのですか。

A
 「将来経営的に苦しくなる恐れがある」程度ではなく、どんな必要性があるのか、変更後の退職金の相当性、従業員によく説明をしたか、など検討することが大切です。そして全員の同意を得れば可能です。何の代替措置もせず一方的に不利益に変更することは難しいでしょう。


 代替措置というとどういうことですか。

A
 たとえば、これまで定年が60歳で、それ以降は再雇用であったものを、定年を65歳にしたということなどすれば代替措置といえます。


 全員の同意を得ることは大変です。それでは、たとえば来年入社から退職金廃止ということは可能でしょうか。

A
 それは可能です。就業規則をそのように変更すればいいのです。しかし、もともと退職金制度は良い従業員に長く勤めてもらうためにできた制度ですから、よく検討してください。

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