奈良県保険医協会

メニュー

職員のマイカー通勤途上の事故で経営者の責任は

雇用問題Q&A 社会保険労務士 曽我 浩

 「月刊保団連」の好評連載記事から、著者および発行元の許可を得て転載して紹介します。
 なお、ここに掲載した記事は、それぞれ掲載時点の情報です。関係法令の改定や行政当局の新たな通知等によって、取扱いが変更されている事項が含まれている可能性があります。ご高覧にあたって、予めご了承ください。

職員のマイカー通勤途上の事故で経営者の責任は
【2008年6月】


 職員が、子どもを保育園へ送り迎えのためマイカー通勤をしたいといってきました。マイカーで通勤している場合、通勤途上で事故を起こした場合、診療所に責任はありますか。

A
 診療所の業務には一切使用せず、純粋に通勤のみに使用している場合は、これも絶対にとは言えませんが、まあ診療所の責任はないといえます。


 マイカー通勤の場合、通勤費としてガソリン代を支払えばいいのでしょうか。

A
 そうです。駐車場はどうするのですか。


 診療所の駐車場にかなりのスペースがありますから、そこを使うことになります。

A
 そこまでなら問題ないですが、ガソリン代に加えマイカーのタイヤなどの消耗品実費、損害保険料、車検料などの、いずれか一つまたは一部の費用援助を行うと、「運行支配権」ありとして会社の責任が生じてきます。


 たまに患者の所に立ち寄ってもらうことがあるかもしれませんが、このようなことをさせると私どもの責任が生ずるのですか。

A
 そのような場合、自賠責保険法により運行供与者責任(運行供用者責任と運行の利益責任)、民法に基づく不法行為責任(従業員がその事業の執行につき第三者に対して加害したことの責任)が生じますから、診療所の責任も生じます。


 私は、安全運転についてはかなり口うるさく注意しているつもりですが、それでも私どもの責任が生ずるのですか。

A
 民法では、①使用者が相当の注意を払っていたとき、②相当な注意を払っても、事故が発生し損害を防ぐことができなかったであろうことを証明したときは、使用者は責任を負わなくてよいとされています。しかし、これは言葉だけで、実際に責任がないとした事例はほとんどありません。したがって、多少でも業務の性格を有する場合、使用者は責任を免れることはできません。


 ちょっとした業務上のことでもマイカーで事故を起こした場合、私どもの責任が生ずることになるのですね。

A
 そうです。マイカーを通勤以外に絶対に使用しないというならともかく、少しでも業務に使わせる可能性があるならば注意が必要です。私は経営者に、「マイカー通勤規程」を作成し、損害保険は人身事故に関しては無制限の保障、物損についても無制限の保険加入を義務付けるようお勧めしています。


 マイカー通勤を許可していない職員が、通勤中に事故を起こし、怪我をした場合、労災保険を使用できますか。

A
 たとえば、どのようなときですか。


 いつもは電車・バス通勤なのですが、次の日が休日なので終業後そのままドライブに行くつもりでマイカーで通勤してきたようなときです。

A
 その通勤経路が合理的経路であるならば、労災保険法上の通勤災害として労災保険を使用できます。


 マイカー通勤を禁止していてもですか。

A
 そうです。通勤災害かどうかを決めるのは、使用者ではなく労働基準監督署です。仕事とはまったく関係もないところに立ち寄ったなど、労働基準監督署として通勤災害でないと判断しない限り通勤災害とされます。


 その事故の場合、加害者がいて信号無視の相手にぶつけられたような場合、自賠責保険と労災保険の関係はどうなるのでLしょうか。

A
 その場合、両方の保険に対して請求する権利があります。しかし、労災保険の保険給付請求権と自賠責保険に対する保険請求権と、どちらを先に請求するか法律上の規定がありません。したがって、どちらを先にしてもいいのですが、手続き的には自賠責保険を先にしたほうが面倒ではありません。ただ、自賠責保険から100%補償されても、労災の支給分はありますから、必ず労災保険への請求も忘れずにしてください。

雇用問題Q&A

さらに過去の記事を表示